プロダクトとユーザーの二兎を追う──SmartHRのPMMは「最善のプランC」を求めて行動する

「社会の非合理を、ハックする。」をミッションに掲げ、人事・労務の業務効率化を実現するソフトウェアを開発する株式会社SmartHR(以下、SmartHR)。働くすべての人の生産性をテクノロジーと創意工夫で向上させる同社のサービスは4万社以上に導入されている(2022年2月時点)。今後、社会インフラとして利用されるサービスを目指して、同社のソフトウェアの成長を支える重要な役割の一つがPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)だ。

新たな事業の柱を生み出すフェーズに突入したSmartHRにおいてPMMが担う役割とは何か。そして彼らは「なぜ、ここで働くことを選んだのか」──。PMMに求められる資質や、急成長を支える屋台骨として働くことの醍醐味について、SmartHRでPMMを務める北原詩緒里と佐野稔文に聞いた。


バリューが日常に溶け込んだSmartHRのカルチャー

──まずは、それぞれが手がけているプロダクトと、PMMとしての業務について教えてください。

北原詩緒里(以下、北原):私は、2021年10月にリリースした人事評価機能の企画・開発を担い、その売上に責任を持っています。新しい機能のリリースにあたって、「そもそも、なぜ人事評価は必要なのか」「企業の人事が抱える課題はなにか」を取りまとめ、社内の営業やCS(カスタマーサクセス)向けに勉強会を実施したり、資料作成や同行など営業支援・導入企業の活用支援を進めてきました。リリース後は受注・失注要因から次の開発要件を洗い出したり、営業・活用支援の過程で生まれた課題を基にコンテンツを企画しています。

北原詩緒里(きたはら・しおり)
2012年早稲田大学卒業後、ITベンチャー企業に入社。営業や人事の経験を経て、新規事業の立ち上げに従事。人事として採用、研修・教育、評価、社内活性化・エンゲージメント向上の施策企画、配置異動検討等を経験。2021年にSmartHRへ入社し、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の機能企画・開発を担当。人事での深い経験を生かし、蓄積された人事データの活用を実現する人材マネジメント機能の企画・開発に注力する。

佐野稔文(以下、佐野):私はおもに労務領域での人事データベースの構築に関わる機能を担当しています。お客様にSmartHRをより使っていただけるような提案を考えて、営業やCSに共有したり、いまのSmartHRの機能では解決できない課題は、開発にフィードバックして、PM(プロダクトマネージャー)と一緒に機能の企画を行ったりしています。

北原:二人とも営業やCSに頻繁に同行して、日頃からお客様の課題やご要望に向き合っているのも特徴です。

佐野:そうですね。自分の考えだけで進めていける仕事ではないので、実はけっこう泥臭く行動している要素が大きいですね。

――SmartHRを利用するユーザーの生の声を拾うことを重要視しているわけですね。

佐野:普段お客様とお話している営業やCSなどの声も重要ですが、私たちPMMからもお客様にヒアリングさせていただくことを非常に重要視しています。SmartHRとしても「人が欲しいと思うものをつくろう」という価値観を大事にしていますし、そのためにはお客様から直接お話を伺う必要があると考えています。

北原:人事評価は運用方法が各社各様で、お客様からのリクエストも多岐に渡ります。その中から優先順位を見極めていく難しさはありますが、直接お話を伺うことで課題の解像度が上がっていくと感じています。

また、お客様や営業、CSなどビジネスサイドの関係者とのコミュニケーションはもちろんですが、開発やPMなどプロダクトサイドの関係者とのコミュニケーションも欠かせません。プロダクトに関わる人たちの声と、プロダクトを利用するお客様の声の両方を聞くことがPMMにとっては重要だと考えています。

――携わるプロダクトは異なっていても、お二人には共通したポリシーがありますね。どういった経緯でSmartHRに入社したのでしょうか?

北原:前職では営業や人事などを経て、新規サービスのプロダクトオーナーとして、販売戦略立案やサービス運用チームの立ち上げなどに携わっていました。いろいろな役割を担う経験ができた一方で、よりサービスの成長に中長期的にコミットできる環境へ移ることを考えていました。そんな折に、SmartHRがPMMを募集していたのをエージェントに紹介してもらいました。仕事内容や理念、事業内容が合致していたのが決め手でした。

佐野:私はwebマーケティングの会社でアナリストとして、多種多様なお客様のコンサルティングを担当していました。広くビジネスや仕事の進め方などを学ぶことができた一方で、もともと理系出身でものづくりが好きだったこともあり、プロダクトに直接関わる仕事をしたいという思いがありました。自分が培ってきた経験を活かすことができて、ミッションへの共感、カルチャーフィットなど様々な希望全てに合致する会社、職種を探していたときにSmartHRのPMMと出会い、入社を決めました。

佐野稔文(さの・としふみ)
2019年京都大学大学院修了後、ITベンチャー企業に入社。アナリストとして、webマーケティングのコンサルティングに従事。2021年にSmartHRへ入社し、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の人事データベース構築に関する機能の企画や仕組み作りに注力する。

――お二人とも理念に共感して入社されたわけですが、実際の業務の中で感じるSmartHR“らしさ”とは?

北原:SmartHRには「最善のプランCを見つける」「認識のズレを自ら埋めよう」といったバリューが定義されているのですが、日常の会話の中でも「それ、プランCだね」とか「ズレ埋めだね」と、バリューが言葉にしやすい形で飛び交っていることに驚きました。入社前の面談でもバリューを大事にしていることは伝わっていましたが、「バリューを体現できているね」とお互いに言い合える環境はいいなと思います。

佐野:オープンでフラットな組織であることですね。入社後にネガティブなギャップを感じたことは全くありません。むしろ、裁量権の大きさには良い意味で驚きました。私はプロダクトに関わる業務の経験はほとんどなかったのですが、初期から多くの仕事を任せていただいています。

――ちなみに、お二人が好きなバリューは?

北原:私は「自律駆動」ですかね。「自律駆動」には、指示を待つのではなく自ら解くべき問題を見つけ、自分で判断して主体的に行動を起こそうというメッセージが込められているのですが、それが社内に浸透していると感じます。

佐野:私も「自律駆動」というバリューは好きですね。社員それぞれが各領域のプロフェッショナルとして、主体的に行動しているので、自分の領域に集中できるのだと思います。

PMMに活かせる経験は一つだけではない

――北原さんはプロダクトオーナー、佐野さんはアナリストと異なるバックグラウンドをお持ちですが、PMMに活かされている経験はありますか?

佐野:ロジカルシンキングやプロセス設計、並行処理の能力は役に立っていますね。前職では同時進行で複数の案件を担当していたので、優先度を決めて効率的に業務を進める仕組みを自ら設計していました。SmartHRでも複数のプロダクトを担当しているので、前職の経験がなかったら、かなり苦労していただろうなと思います。

とはいえ、まだ自分自身で満足できるレベルではないので、PMMとしてのスキルや能力を伸ばしていきたいと考えています。

北原:周りの方に協力を仰ぐのもPMMの仕事なので、何か仕事を頼む際には背景や目的を丁寧に伝えることを意識しています。様々な役割・立場の方がいらっしゃるので、どのような点に疑問や不安を感じそうか、相手の目線で考えることが必要です。いろいろな立場で仕事をした経験が、そういった場面で活かされていると思います。

――SmartHRのPMMでは、どういったスキルや能力が要求されますか?

佐野:難しい質問ですね。ハードスキルよりもソフトスキルが求められますし、先ほどお話ししたような過去の経験は間違いなく活かせます。関係する部門を巻き込み、話し合いながらゴールに向かってプロジェクトを推進する能力は必ず役立つと思います。

北原:求められるスキルは多岐に渡りますが、得意でないことは、同じチームのPMMやPMなど周りにそれを得意とする人もたくさんいるので、積極的にお願いして助けてもらうようにもしています。

佐野:SmartHRのPMM内でも、スキルや能力のタイプは違いますよね。SmartHRには様々なフェーズのプロダクトがあるので、タイプが違うのは自然なことだと思います。

ハードスキルよりもソフトスキルが求められるからこそ、さまざまな経験がPMMにキャリアチェンジする上で活きている。なにより必要なのは「相手の目線に立って考えること」と口をそろえる。

――お二人とも異なるタイプのPMMというわけですね。共通してコミュニケーションを重視しているようですが、大事にしている点は?

北原:いろいろな方の意見を聞きながらも、最後に決めるのは自分自身だという覚悟、ですかね。コミュニケーションは欠かさない一方で全ての意見を聞き入れるのは難しい。それでも、自分の決断を理解してもらえるよう努力を怠らないことを意識しています。

佐野:コミュニケーションの心地良さを大事にしていますね。1つはレスポンスの早さで、社内に多くのステークホルダーがいるため、自分がボトルネックにならないように心掛けています。もう1つは、Slackのスタンプですね。SmartHRには、Slackでスタンプを使う文化があるのですが、とても素敵だなと思います。個人的にも、文章だけでは伝えづらい感情を伝えるために、意識して使うようにしています。

北原:オンラインだからこその工夫ですよね。文字だけだと意図しない伝わり方をしてしまうケースもあるし、特にテレワークで仕事をしていると、直接会って話をする機会も限られますから。

「最善のプランC」を求める、SmartHRのPMMとしてあるべき姿

――お二人が目指すPMM像はありますか?

佐野:労務領域のSaaSサービスは成熟期に入り、競合がひしめく中で、フロントランナーとして成熟期に入り、競合がひしめく中で、フロントランナーとしてどのように差別化を図り、市場を開拓していくかが重要です。PMMとしては広い視点を持ちながら、スピード感を落とさずにSmartHR全体での最適化を図っていきたいですね。

北原:「SmartHR=労務」というイメージを持たれている方も多いと思いますが、「人材マネジメント」を支援するサービスとしての認知も高めていきたいですね。そのために、労務領域で培ってきた信頼を損なわず、より信頼を積み上げていけるようなプロダクトに、人事評価機能を育てていきたいです。

また、SmartHRに入社したのも、複雑でアナログな人事・労務をシンプルにすることで従業員が本来やるべき仕事にコミットできるという点に魅力を感じたからなので、そのようなプロダクトを提供している立場の自分が、まずはやるべき仕事にコミットして楽しく働くということを常に意識しています。

――PMMが率先してポジティブなマインドで働くことで、周りにも伝播して新たな成長につながるわけですね。

北原:これからのSmartHRは第2、第3の柱を作っていく段階にあります。次に何をやるべきなのか、自分から発信できるようになりたいですし、会社全体としてもそういった発信ができるようになるといいですね。

――お二人のお話を伺っていると、調整能力や交渉力、現場のヒアリングを怠らないといった行動力が求められているように思いますが、どんな方と一緒に働きたいと思われますか?

佐野:プロダクトとユーザーの両方に向き合える人と働きたいですね。PMMはプロダクトとユーザーの両方に関わる仕事ですが、担当プロダクトのフェーズによって、一時的にどちらかに偏ることもあります。ただ、どちらかを疎かにすると良いものは生まれませんし、お客様から喜ばれるような価値を提供できません。どちらにも100%向き合える人が理想です。二兎を追う人だけが、二兎を得る可能性があると思っています。

北原:SmartHRのバリューにある「最善のプランCを見つける」が体現できる人と働きたいですね。

「最善のプランCを見つける」というのは、“今あるものが最適解とは限らない。「こんなものだろう」という思い込みを捨て、常識を疑い、俯瞰で物事をとらえよう”ということです。手段や技術に固執せず、柔軟に工夫することで選択肢を多く出し、「どちらか」ではなく「どちらも」叶える最善の答えを生み出していくことが重要だと私たちは考えています。

――「どちらか」ではなく「どちらも」叶える最善の答えというのは、佐野さんが仰っていた「二兎を追う」に通じるものがありますね。

北原:PMMという仕事に就いている人は世の中を見渡してもまだ数が限られていますし、これから正解を見つけていく仕事だと思っています。だからこそ、常に模索しつづける人と働きたいと思います。仮説を立てながら、さまざまな人に意見を聞き、何が最適解なのか、何が最善のプランCなのか、それを考え続けられる人と一緒に働けると嬉しいです。私もまだまだなのでがんばります。

PMMはまだまだ正解がない職種。ユーザーに対してSmartHRの利用価値を最大化するため、何が最善のプランCなのかひたすら考え続けていく。
  • TEXT BY 越智岳人(シンツウシン)
  • PHOTOS BY 高木亜麗
  • EDIT BY 瀬尾陽(Eight Career Design)
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