オープンで実力主義。一方ベースにあるのは「助け合いの文化」──レッドハットの根底にある働きやすさに迫る

Linuxをはじめとするオープンソースソフトウェアを企業向けに開発し、販売から導入後のサポートまで一貫したサービスを提供する米Red Hat Inc.。Linuxディストリビューションの「Red Hat Enterprise Linux」をはじめ、コンテナ環境管理プラットフォーム「Red Hat OpenShift」を提供。2019年にIBMの傘下に入った後も成長を続け、日本においても多くの企業に支持されている。

OSだけでなく、ハイブリッドクラウド領域全体でのリーディングカンパニーとなりつつある同社では、年々増加する顧客により満足していただくために、カスタマーサクセス組織を新設した。日本法人であるレッドハット株式会社 執行役員の齋藤 亮一氏に、今後の戦略とそのために必要な人材、根底にある企業文化について聞いた。


顧客との直接取引が増加。よりプロアクティブな対応が求められている

──Red Hatの事業内容と、国内での主な顧客についてお聞かせください。

Red Hatは業界の中では長い歴史を持つ会社で、Linuxをベースに様々な事業展開をしてきました。オープンソースのコミュニティから立ち上がった会社で、オープンソースを上手く使ってお客様にバリューを届けています。Linuxをベースとしたインフラから、最近ではOpenShift、クラウドビジネスにも事業を広げています。

国内のお客様の領域としてあげられるのは、まずはテレコミュニケーション。国内大手4大キャリアのビジネス規模は特に大きく、各社が提供する5Gサービスにいかに食い込んでいくかが重要だと感じています。また、メディア、エンターテイメントの業種にも強く、他にもメガバンクや製造業などのエンタープライズ、公共領域などいろいろな業界にお客様がいらっしゃいます。最近は、IT=インフラとしてだけではなく、各社が「ビジネスに直結するもの」として捉えていることもあり、あらゆる業種・業界でご利用いただいています。

齋藤 亮一(さいとう・りょういち)
レッドハット株式会社 執行役員 カスタマーサクセス・プラクティス本部長。日系SIerで開発関連の仕事に従事した後、Sybaseでのサポートエンジニア、Oracleでのサポートチームのマネージャーを経て2010年にSalesforce.comへ。日本でのテクニカルサポート組織の発展と戦略を執行役員としてリードする。2019年にはAmazon Web Servicesに移り、エンタープライスサポートマネージャーを担当。2021年5月にレッドハットに入社し現在に至る。

──齋藤さんは2021年の5月にRed Hatへ入社されました。現在はどのような役割を担っていらっしゃいますか?

当社にはCEE(カスタマーエクスペリエンス&エンゲージメント)と呼ばれる、テクニカルサポート、エスカレーションマネージメント、テクニカルアカウントマネージャー(TAM)、カスタマーサクセスマネージャー、パートナーサクセスマネージャーという5つの役割で成り立っている部門があります。私はその、日本におけるCEEチームをリードしていました。

当社では2021年末から2022年のはじめにかけて大きな組織変更があり、新たにカスタマーサクセスという組織ができたのです。カスタマーサクセスでは、お客様のライフサイクルを見据えたエンゲージメントを高めていく活動をしており、私はそこで、カスタマーサクセス・プラクティス本部長として組織を管轄しています。

──齋藤さんはなぜRed Hatに入られたのでしょうか?

もともと大学を卒業してから日系のSI企業で開発者として働いていました。顧客に合わせたソリューションを作る日系企業で働く経験も楽しかったのですが、やはりグローバルで活躍している企業で開発者になりたいと思い、外資系企業への転職を考えました。ただし、経験が少ない状態で採用されることは難しいため、まずはテクニカルサポートエンジニアとして、データベースを扱う企業に入社することにしました。その後、同じ領域の2社で8年ほど過ごします。

サポートの仕事が楽しくなってきた2006年ごろに、マネジメントにロールチェンジする機会があり、その後Salesforceに入社しました。クラウドサービスが流行しはじめていた時期で、アプリケーションにも携わりたいと考えていたことが理由です。そこで10年ほど勤務した後、Amazon Web Services(AWS)を経て、当社へ入社しました。

──データベース、クラウドのアプリケーション・インフラと、さまざまな領域でサポートを担当されてきたのですね。

私の採用担当だった当時のマネージャーは、「これまでのRed Hatのカスタマーサクセスは、どちらかというと受け身だった」と話していました。これからはもっと変化し、プロアクティブに転換していかなければならない状況であることを知り、私の経験を活かせると思い入社を決めました。

これまでのRed Hatビジネスでは、パートナー経由もしくは直接プロダクトを販売するスタイルが主流でした。しかし近年では、お客様のクラウド活用が進んでおり、AWSやMicrosoft Azure上から直接私たちのプロダクトを利用されるケースが増えています。そのためカスタマーサクセスによって、お客様のエンゲージメントを高めることが必要となっているのです。

──お客様はRed Hatからのダイレクトなサポートを求められているのでしょうか?

はい、それは顕著に感じます。クラウドファーストは政府からも提唱されており、パブリッククラウドを利用する場合、間にパートナーを挟まずに直接利用するケースも増えてきています。インフラはクラウドベンダーから調達して、ミドルウェアなどをRed Hatから調達するといったパターンです。

当社のソリューションはインフラに近いので、エンドユーザーさまの目には触れにくいです。そのためきちんと運用することは難しく、それなりのスキルが必要となります。そのため当社によるコンサルティングやサポートがとても重要になるのです。

要求レベルは高いが、技術力は社内にある。やる気があれば上を目指せる環境

──Red Hatでは新たな戦略を実現していくために、どんなメンバーを求めているのでしょうか?

現在、私のチームでは、テクニカルサポートエンジニア、テクニカルアカウントマネージャー(TAM)、カスタマーサクセスエグゼクティブ(CSE)の3つの役割のメンバーを募集しています。

テクニカルサポートエンジニアは、チケットベースでお客様の技術サポートをする役割です。当社においては、Linux、OpenShift、OpenStack、ミドルウェア、オートメーション系アプリケーションなど、あらゆるソリューションにおいて必要としています。

求めているのは、オープンソースのコミュニティの中で活躍し、自分の技術を世界に還元していきたいという強い志を持つ方。当社の技術要求レベルは高いのですが、今技術力に自信がなくてもやる気や情熱があれば力は上がっていきますし、育成する環境はしっかりとありますので、第二新卒の方もウエルカムです。

Red Hatの方針は、お客様に対してコミットできるサポートエンジニアを育て上げていくこと。現在は市場全体で「お客様に寄り添えるエンジニア」が求められている。

──ほかの職種、TAM、CSEについてはいかがでしょうか?

一般的にTAMに対しては「技術力はそこまで高くない」「裏にテクニカルサポートのエンジニアがおり、TAMがお客様の窓口を担当する」などのイメージを持たれることがありますが、Red Hatに来てびっくりしたことがTAMがお客様の問題解決に直接入り込んでお仕事させていただいていることです。

1人のエンジニアがお客様からいただくお問い合わせに対応しつつ、定例の会議もこなす。同時にお客様の問題を実際に解決していくなど、end-to-endで全て担当しています。テクニカルサポートエンジニアからTAMにステップアップしていくというキャリアパスも当然あります。

CSEは、他社でのカスタマーサクセスマネージャー(CSM)と似ており、よりお客様にコミットしていくような職種になっています。一番のポイントは、お客様との関係を保っていくこと。システムの安定運用に対してプロアクティブに活動することが求められるのですが、システムのリニューアル、アップセル、クロスセルに関して営業担当のように目標の数字を持っている点が他社と異なります。目標がはっきりしているため、それを達成するために、担当するお客様のリニューアルなどの計画を練るなどの活動ができるのは良い点です。

CSEは、営業やリニューアルセールス、サービスセールス、TAMの経験者が対象になります。ただし、当社の製品はSaaSなどエンドユーザーに直接触れるプロダクトと違うため、ITの企画部やインフラ、システム全体に関連する意思決定者とのコミュニケーションが必要になります。現在、エンタープライズ系のSaaSで営業をされている方の、次のステップとして視野に入る役割だと思います。また、よりお客様に貢献したいと思っている方はCSEが向いていると感じます。

オープンで実力主義だが、ベースには助け合いの文化を持つ企業

──齋藤さんは入社されて1年弱ですが、そのなかで感じたRed Hatのカルチャーについて教えてください。また、IBM傘下に入ったことによる影響は感じられますか?

まず、IBMについてですが、私も入社のときに気になって質問しました。結論から申し上げると、IBMとは関係性はあるものの、Red Hatは独立した状態にあります。ブランドとしては完全に独立しており、それは今も変わっていません。

Red Hatのカルチャーは、オープンであることがよく言われます。なかでも私が注目しているのが、「オープンディシジョンフレームワーク」という考え方です。これは「いろいろな人に意見を聞いて、一番良いものを採用して動く」というもので、地位や勤続年数、バックグラウンドに関係なく最も良い意見が採用されます。そのため、もしも自分の意見を通したいと思ったら、皆が納得するような意見を示さなければなりません。

簡単な例で言うと、チームの週次ミーティングもただ定例だからとやるのではなく、意味がなければやめるという決定もできます。今回の日本のカスタマー・サクセスプラクティス部門の組織変更も皆さんの意見を聞いて決めました。

トップダウンでは決定しないというこの考えが、個人的にはすごく好きです。私が知る外資系企業の場合、トップダウンで方針が決まって社員は後から決定事項のみを報告される形が多いですが、当社ではいろいろな人の意見を聞きます。ただし、何でもかんでも意見し、言いっぱなしになるのは良くありません。意見すると同時に、自分の意見を自分がどう進めていくかという考えや覚悟も求められます。

──Red Hatにはさまざまな専門家がいらっしゃると思います。たとえば、自分が苦手と思う分野についてその専門家とコラボレーションして解決していく文化はありますか?

コラボレーションは、我々の基礎となる文化です。テクニカルサポートを例に説明すると、お客様からお問い合わせいただくと、担当者がオーナーとなって解決のための調査をします。調査をしていく中で行き詰まることもあるのですが、そうすると他のメンバーがその問合せに対して管理画面上でどんどん意見を投稿していきます。難しい問題であればあるほど、シニアのメンバーからのアドバイスも集まります。このように、まさにコラボレーション方式でお問い合わせを解決するようになっているのです。

困った人を助けるのは、Red Hatにおいて当たり前の文化。誰であっても、聞けば教えてくれます。オープンカルチャーとはまた違う視点の文化ですが、会社を良くしたいという情熱を持つ人が集まっているので、全員で助け合いながら成功していこうという意志がすごく強いのです。

──目指すキャリアの憧れのメンバーとコラボレーションし、そこからステップアップしていくこともあるのでしょうか。

仕事をしていくなかで社内にロールモデルを見つけることができるので、そういったステップも考えられるでしょう。ロールモデルというのは、我々マネジメントが決めるものではありません。チームで働きながら見えてきたものを、個人個人がちゃんと理解して動いています。

──Red Hatの一員として必要なマインドや素質についてもお聞かせください。

いくつかキーワードはありますが、パッションを持っていること、セルフモチベーターであること、セルフスターターであることです。自身のキャリアに対して前向きに開発していく考えがないと伸びないと思いますので、この3つが重要だと考えています。

私の個人的な印象ですが、大企業になればなるほど、今日、明日、来週でやるべきことがきちんと決まっています。そういった仕事のスタイルを好む方は大企業が向いているでしょう。一方のRed Hatは、パッションがあれば何でもできる環境がある会社です。知恵と工夫で効率化し、会社を良くしていこうと思える方であれば、この会社は面白い環境です。

私が一緒に働きたいのは、熱量がある人です。自分のキャリアや仕事に対してプライドやパッションを持って取り組まれる方と一緒に働いていきたいですね。

Red Hatのカルチャーである「オープンディシジョンフレームワーク」を「極めて民主的で実力主義な考え方」と評価する。最も優れた意見が通るのは、シンプルで働きやすい環境と言える。
  • TEXT BY 森 英信
  • PHOTOS BY 高木 亜麗
  • EDIT BY 山本莉会(プレスラボ)
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