アプリケーションのモダナイゼーションという日本企業が抱える重要課題に、「VMware Tanzu」から新しい風を吹き起こす

インフラストラクチャの仮想化やクラウドテクノロジーで企業のDXを強力に推進するアメリカ発のグローバル企業、ヴイエムウェア株式会社(以下、ヴイエムウェア)。

ヴイエムウェアはこれまで、おもにインフラストラクチャーの仮想化やクラウドテクノロジーを活用してサービスを提供してきたが、近年、オープンソースのプラットフォームであるKubernetesに関連するソリューション群の強化に力を注いでいる。

2018年11月には、Kubernetesの生みの親であるクレイグ・マクラッキーとジョー・ベーダによって設立されたHeptioを買収。その後、ソフトウェアパッケージングソリューションを提供するBitnamiや、モダンアプリケーションの開発支援を行うPivotalなど、Kubernetesに関連する企業を複数買収し、マルチクラウドとモダンアプリケーションに関するサービス展開に備えてきた。

そして2020年3月、Kubernetesによるアプリ構築をサポートする製品・サービス群の「VMware Tanzu」を正式リリース。

満を持してのリリースとなった「VMware Tanzu」とは、どのような製品なのか。また、ヴイエムウェアという企業にとって、事業戦略上どのような位置づけのものとなるのか。ヴイエムウェア日本法人の代表取締役社長を務める山中直、VMware Tanzu Directorの中村貴弘に聞いた。


モダンアプリケーションの開発から運用まで支援する「VMware Tanzu」

――ヴイエムウェアがKubernetes関連企業を次々と傘下に収め、新たに「VMware Tanzu」をリリースする運びとなった背景を教えてください。

山中直(以下、山中):弊社はもともとインフラストラクチャーの仮想化や抽象化を手掛けており、その次にマルチクラウドも含めた抽象化にも領域を広げてきました。そして今度はもう一つ領域を広げ、アプリケーションレイヤーに新たな抽象化レイヤーを敷こうと考えているのです。これを、我々は「Digital Foundation」と呼んでいます。

そのアプリケーションレイヤーの中でも、特に重要な要素だと考えているのは、モダンアプリケーションです。そこに従来のアプリケーションのモダナイズも含めて、サポートやプラットフォームを提供するために、「VMware Tanzu」の開発を行いました。

買収した企業の一つであるPivotalは、もともとヴイエムウェアの一部の人材と製品をスピンアウトさせてできたもの。それが一つの独立会社としてIPOを経てからヴイエムウェアに再合流してきたという背景があるので、ある意味人材も製品も元の鞘に戻ったと言えます。ヴイエムウェアとして、このような流れでアプリケーションのプラットフォームに踏み込んだのは必然だったのかなと思います。

山中直
2021年1月18日付で、ヴイエムウェア株式会社 代表取締役社長就任。2007年にシニア コーポレート アカウント マネージャとして入社後、要職を歴任。エンタープライズビジネスの成長に貢献。直近では上級執行役員 副社長として、顧客企業のデジタルトランスフォーメーションの実現に注力。

中村貴弘(以下、中村):コンテナテクノロジーが使われ始めた2014年ごろは、KubernetesがITトレンドとして、ここまでポピュラーになっていくということは誰にも想像できなかったのではないでしょうか。ただ、実際にお客様による採用が広がっていく中で、ヴイエムウェアとしてもこのテクノロジーを無視できなくなりました。

コンテナも仮想化技術の一つの要素という意味ではヴイエムウェアとの相性もいいですし、今までは物理的な機械と切り離して仮想化技術を培ってきたというところで、今度はアプリケーションをインフラと切り離した状態、すなわちどこでもワークロードを動かせるようなテクノロジーを、ヴイエムウェアとして手に入れたいと考えたと思います。

中村貴弘
ヴイエムウェア タンズ ディレクター。複数の外資IT企業での営業経験を経て、2020年 VMware による Pivotal の買収に伴い、ヴイエムウェア株式会社に入社。製品営業/SEチームを統括。

――では、「VMware Tanzu」の強みについて教えてください。

中村:「VMware Tanzu」は、Kubernetes環境におけるモダンアプリケーションの開発から運用までを、エンタープライズ向けの機能として提供していく製品群です。VMware vSphereを中心とするヴイエムウェアの既存ソリューションとの相性が非常に良く、お客様にとって、今までの仮想環境とコンテナ環境をわざわざ別の環境に置く必要がない。つまり、一つの統合した環境の中で管理できるという利点があります。

「VMware Tanzu」は、Kubernetes環境におけるモダンアプリケーションの開発から運用までを、エンタープライズ向けの機能として提供していく製品群。マルチクラウドで稼働するKubernetesを単一かつ統合された制御プレーンでの管理が可能。

「VMware Tanzu」はオープンソースにコミットしているため、他社製品との組み合わせも可能です。我々は1社ですべての機能を囲い込みたいのではなく、あくまでもお客様に選択肢を提供したいという考え方。仮に他社のKubernetes環境を使っていたとしても、「VMware Tanzu」のポートフォリオにある製品の一部でも採用いただき、開発者の生産性向上、運用者の作業軽減に寄与できればいいと考えています。

Kubernetesは技術トレンドの動きが非常に速い領域なので、独自のテクノロジーでお客様を囲い込むと、付いてきてくださるお客様はいても、それ以外のお客様に選択肢を提供できなくなります。そうならないようにお客様に選択肢と透明性を提供していることも我々の強みだと思っています。

「VMware Tanzu」のポートフォリオには、「VMware Tanzu Labs」というサービスが含まれています。これは、お客様に伴走しながらアプリケーション開発や運用を支援するもので、アプリケーション開発の変革とプラットフォーム変革の両方に対して支援できるところが、他社にはない特長になっています。

レガシーアプリケーションのモダナイズは、多くの日本企業が抱える重要課題

――「VMware Tanzu」は、具体的にお客様のどのような課題を解決するのでしょうか。

山中:おもに、モダンアプリケーションの開発と、アプリケーションのモダナイズという2つの課題にアプローチします。

モダンアプリケーションの開発は、たとえば航空会社の予約アプリのように、ビジネスの展開を左右するとても重要なものです。そのため、開発はアジャイルでなければいけませんし、アプリそのものも最先端でなければなりません。最近はこれまで以上にテクノロジーによってビジネスを変革する必要性が増してきたこともあって、「VMware Tanzu Labs」に大手企業からお客様が来て、アジャイルな開発を学ばれるという機会も増えてきています。

一方、ビジネスの競争優位性に、デジタルテクノロジーがより深く関係するようになってきていることで、レガシーアプリケーションのモダナイズも注目度が高まってきています。これは日本の多くの企業に求められる変革であり、社会問題と捉えることもできます。そこをご支援していくのは、これからの日本企業の発展にとって、非常に重要なことだと考えています。

「VMware Tanzu」が向き合う課題解決は2つ、モダンアプリケーションの開発と、アプリケーションのモダナイズ。「ビジネスとして何を目指しているのか」に着目し、そこからテクノロジーの話にブレイクダウンする方法でアプローチする。

――その顕在化する社会問題に対して、日本企業の取り組みの現状はどのようなものなのでしょうか。

中村:日本のお客様は、モダナイゼーションというとテクノロジーやアーキテクチャそのものに着目しがちで、「どうすればこのバッチをなくすことができるのか」「どうすればプログラムをコンパクトにできるのか」といった会話になってしまう傾向にあります。

しかし、我々が取っているアプローチはテクノロジー起点ではなく、あくまでもビジネス的な観点。「お客様がそもそもなぜモダナイゼーションする必要があるのか」「ビジネスとして何を目指しているのか」に着目し、そこからテクノロジーの話にブレイクダウンしていきます。必ずしもすべてをモダナイズするのがゴールではないので、必要に応じて既存の機能の一部をつくり変え、それを新たなプラットフォームで稼働させながら、アジャイルに開発を進めていくという考え方です。

世の中のトレンドもあって、最近事例としても多いのがペイメントなどの決済ソリューション。その機能を使いやすく改善しながら、既存顧客の維持や新規顧客の獲得といった目的に向かって、アジャイルにサービスリリースしていくという動きが、すでにいくつか進んでいます。

――具体的には、どのように課題解決のお手伝いをしていくのでしょうか。

山中:まずは1つのプロジェクトに4~6週間という短い期間で、どこから手を付けていくかの判断基準を話し合い、1つか2つほど対象のアプリケーションを選択して、小規模の改善から取り組んでいきます。そこからお客様の要望や目的に応じて3カ月から長くて1年、人材も含めたトランスフォーメーションを行う場合は2~3年という期間にわたってご支援していく形です。

従来のIT業界のやり方は、数年かけて大きなシステムを開発し、出来上がったものを納品するというものでした。しかし、今はテクノロジーの進化のスピードが速いため、できたときにはすでに古くなってしまっているというリスクがあります。そうならないために、小さな改善ですぐに結果を出し、それを繰り返すというアジャイルな開発手法が求められているのです。

――ヴイエムウェアが手がけている事例には、先述の決済ソリューションのほかにどのようなものがありますか。

中村:一つ事例として、東京証券取引所様のETF市場におけるRFQプラットフォームという新たな金融サービスの立ち上げがあります。それは我々が最初の入口から関わらせていただき、今年1月の本番リリースまで伴走しました。現在は東京証券取引所様の中でも注目されているサービスの一つとなっていて、既に累積売買代金が500億円を超えたと聞いています。

――改めて、ヴイエムウェアの事業戦略として、「VMware Tanzu」に期待することは何でしょうか。

山中:「VMware Tanzu」はアプリケーションのプラットフォームなので、我々のこれまでの製品の中で最もビジネスに近い製品だといえます。インフラストラクチャ―、クラウドと抽象化レイヤーを積み上げてきて、お客様に選択の自由をご提供してきました。そして、いよいよお客様に変革を起こすというところに一番近づいたアプリケーションプラットフォームである「VMware Tanzu」は、弊社の戦略の中でも非常に重要な位置にある製品です。

我々はこれまで、15年の歳月をかけてインフラストラクチャーを変革してきました。まさにその15年かけてやってきたことをこれからはアプリケーションの世界で、創造と失敗を繰り返して試行錯誤しながら、日本のマーケットで新たな世界を定義していかなければいけません。それには、パートナー様はもちろん、お客様に変革に取り組んでいただくこともとても重要です。

ただ、日本のマーケットにおいてはビッグバンで進むようなものではないと考えています。しかし進み始めればどんどん加速していき、あと3年ほどで世界は変わるでしょう。だから、その3年後を目指して今から何をするかを考えて、進めていきたいと考えています。

中村:一方で、我々はすべてのシステムがコンテナの世界に移行するとは考えていません。お客様企業システムの何割かが新しい領域に踏み込んでいくと推測される中、おそらく3年ほどで半分が移行し、成熟期に入るのではないかと予測しています。

「VMware Tanzu」は、15年の歳月をかけてインフラを変革してきたヴイエムウェアにとって、お客様のビジネスそのものに変革を起こすことが期待される重要な位置にある製品。コンテナの世界に移行が進んだ3年後、変革期から成熟期に入っていくことが予想される。

既存マーケットに新しい風を吹かせる、チャレンジ精神を求めている

――今、「VMware Tanzu」のチームはどのような雰囲気ですか。

山中:我々にとっては新しい領域になるので、ガイドをしてもらいながらも夢中で向き合っている感じです。ナレッジも必要になるのでオンラインで日々、社内勉強会も開催していますが、毎回結構な人数が参加していて、社内全体に「今こそフォーカスしなければならないときだ」という空気ができていますね。

――これから「VMware Tanzu」を展開していくにあたって、どのような人材が必要だと考えていますか。

中村:今いるメンバーは純粋にテクノロジーが好きで、それをもってお客様のビジネスに貢献したいと思っている人ばかり。なので、同じように熱い思いを持っている人、その中でも、ヴイエムウェアにとっても、お客様にとっても、新しい領域を一緒に開拓してくれる、好奇心の強い方を求めています。

山中:我々は、既に獲得しているマーケットの中で、新しいものを定義していくスタートアップのようなことに挑戦していかなければなりません。まさに日本の社会問題を解決する、まさに “Tech for Good”、デジタルテクノロジーを通して、日本の社会の変革を良い方向にリードするという大きなチャレンジをしようとしていますし、デベロッパーの世界のコミュニティをリードしなければならないということもあるかもしれません。そういった状況に対して、想像力と構想力を発揮しながら、自由な発想で大きな挑戦をしたいと考えている人がいいなと思いますね。

既存のマーケットの中で、新しいものを定義していくという大きな挑戦に挑むには、テクノロジーへの純粋な好奇心はもちろん、自由な発想力と構想力が必要とされる。求められることは大きいが、それはつまり新しい領域を開拓するチャンスに満ちているのだ。
  • TEXT BY 三ツ井香菜
  • PHOTOS BY 寺島由里佳
  • EDIT BY 山本莉会(プレスラボ)
キャリアにエッジを立てる