2021年1月、ヴイエムウェア株式会社の新社長に山中直が就任した。
ヴイエムウェア株式会社(以下、ヴイエムウェア)は、アメリカに本社を構えるIT企業の日本法人だ。全世界で社員数は3万5000人に上り、複雑化する世界中のデジタルインフラをテクノロジー・プロバイダーとして、支えてきた。
コロナ禍によって、デジタル環境の急激な変革を求められている企業が多くある現在。ヴイエムウェアが次世代のキーワードに掲げる「Digital Foundation」には、いったいどんな意味が込められているのだろうか。 取材を行ったのは、山中が代表取締役社長に就任した直後のタイミングである2021年1月下旬。現在のヴイエムウェアの姿から、今後を見据えたビジョンについて話を聞いた。
テクノロジー・プロバイダーとしてヴイエムウェアが創ってきた価値
――山中さんはこれまで、ヴイエムウェアのさまざまな変化のタイミングに立ち会ってきました。簡単にこれまでのキャリア遍歴を教えてください。
私は2007年に国内IT企業からヴイエムウェアへ転職しました。当時はまだ30名ほどの規模。以降、14年間にわたりヴイエムウェアで働いています。
サーバー仮想化に始まり、ネットワーク仮想化、ストレージ仮想化へと進化する中で、常にデジタルの世界で最先端に立ち、技術革新を推し進めてきました。
仮想化とは、ソフトウェア技術によってハードウェアの物理的な制限を取り除き「抽象化すること」です。例えば10台のサーバーをソフトウェアで仮想化することで、より高い処理能力を有するものとして機能させる。逆に1台のサーバーをソフトウェアで仮想化することで、まるで複数台のサーバーが存在するように機能させることができます。
いよいよクラウドの世界に入ると、私たちのテクノロジーが Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platform など、様々なクラウド上にも展開され、デジタル基盤のサービス提供が始まりました。これにより、お客様は自らのアプリケーションを稼働させるプラットフォームの選択肢が大きく広がることになりました。
オンプレミス (自社データセンター) も含めて、複数のクラウドの架け橋となることで、1つの画面から複数のクラウドを自由に扱えるようにしました。
ダイバーシティーを推進し、より社会へ貢献する
――2021年1月に社長に就任され、今後どのようなことを目指していくのか教えてください。日本法人の設立から15年以上を経て、事業規模が拡大してきたいま、カルチャーの面でも、変革を求められているのではないでしょうか?
3年間をかけて「Digital Foundation」の浸透を目指します。
事業が急拡大する中で、これまではビジネスそのものが、社員もお客様も惹きつけてきました。言わば、スタートアップのような発想です。ビジョンや夢、スケールアップしていく希望などが事業の推進力を保ってきたのです。今後はさらに、事業規模や組織を拡大していこうと考えています。
人々は会社に集うのではありません。お互いが共感し合えるコミュニティに集います。そのために、ヴイエムウェアの日本法人としてのアイデンティティを強固にしていく必要があります。
――山中さん自身も、それを常に意識されている?
私も、ヴイエムウェアに入社して以降、アイデンティティを模索してきました。日本企業から本社が米国にあるヴイエムウェアに転職してしばらくは、「いったい誰のために働いているのか?」と思うこともありました。
しかし、以前、営業部門のグローバルリーダーがイタリア人になった際に、アメリカの会社ではなく、インターナショナルな我々自身の会社だと感じたんです。自分が勝手に国境を定義していただけに過ぎなかった。そのことに気づきました。
もう1つ、当社では「VMware Foundation」という取り組みを大切にしています。これは、我々がビジネスを行う社会・コミュニティに対して私たちのビジネスおよびテクノロジーを通して、どう貢献するかの基本的な考え方です。
私の好きな言葉に次のものがあります。「Tech as a Force for Good」、テクノロジーの力で世の中を良い方向に変えていく、ということです。例えばプリンターをテクノロジーと捉えると、プリンターは、プロパガンダの印刷にも、教育の本の印刷にも使えます。テクノロジーそのものはとてもニュートラルで公平なもの。テクノロジーを良い方向に使っていくことが私たちの使命なのです。テクノロジー・プロバイダーとして、日本の社会やコミュニティに対してどんな貢献ができるのか、より深く考えていきたいです。
――技術面だけでなく、ダイバーシティに対しても以前から力を入れていますね。
そうですね。 今よりさらにダイバーシティを推進しないと、組織が成長していく上で成立しなくなってしまいます。組織の多様化とは、人事部だけでリードするものではなく、ビジネス、つまり我々自身が先導すべきものだと捉えています。それほど多様性を重視しています。というのも、これまで当社はベンチャーとして共通の目標に向かうチームでしたが多様性に富んでいるとは言い難かった。
事業が拡大して人が増えるにつれて、当社のビジョンに共感してくれる人たちだけの集まりでは、持続的な成長は見込めないと考えるようになったのです。そこから、日本法人のアイデンティティについて頻繁に議論するようになりました。
――具体的にはどのような施策を考えていますか?
ダイバーシティとは必ずしも性別差だけに限らず、障がいの有無、昔からいるベテラン社員と新たに入社した社員の間に生ずる考え方の違いにも必要です。世代間ギャップに生じる課題解決も、ひとつのダイバーシティ推進です。
また、現状では男性社員の比率が高いのは事実です。いわば男子校の状態から共学へ変え、誰にでも働きやすい環境を作るチャレンジをしています。これから組織を大きくする中では多様性を重視し、より共感しあえるチームを形成しないと成り立たないと考えています。
ビジネスでテクノロジーサイロの懸け橋となってきたのと同様に、社内においても様々な人と人の間に懸け橋をつくっていかなければなりません。実現できればさらにいい会社になります。
ますます求められるデジタル環境の変革
――ヴイエムウェアはお客様やパートナーとの関係性を重視してきた印象です。今後の関係性はどのように進化するのでしょうか?
お客様やパートナー様のビジネスを理解し、私たちのテクノロジーを組み込み、どういうサービスを作るのか? これは、これまでもこれからも普遍的な考えで、重要なことです。
現在はさらに加えて、お客様もパートナー様もデジタル環境の大変革期にいます。自分たちのビジネスでのデジタル化のあるべき姿や、DXの方向性の定義に苦労され、プレッシャーを感じてらっしゃいます。その不安を取り除いて差し上げることです。プロダクトを販売する前に、お客様やパートナー様から信頼いただける関係性=インナーサークルに入り、一緒に、ワークショップなどを通じて数年後のあるべき姿を描きます。
例えば、お客様の課題の整理と解決の方向性のご提案に始まり、3年後にお客様のビジネスがどこまで到達するのかなど、具体的な工程表=カスタマージャーニーを描く。その段階で初めて「ではそこから、何をしましょう?」の話になります。
昨今では、オンプレミス型で、請負型のビジネスから、サービス型に変化しています。その変化に適応できるよう、我々が懸け橋となって、ご支援していくのが私たちのミッションであり、存在価値です。その関係性を作れていることが私たちのプライドでもあります。
――サポートに相当の力を入れてきたんですね。
日本のお客様やパートナー様は品質にとてもセンシティブだと思います。世界中で見てもリクエストが細やかです。そのご要望にお応えし、ともに進化していく必要があります。
日本法人では、かなりのリソースをサポートエンジニアとして配置してきました。そのおかげもあり、お客様との長期の関係性を築けていると自負しています。
もちろん、信頼いただいている理由には製品・サービスの技術力の高さにあることは確かです。しかし一方で、日本市場で成功するためには、ローカルでのお客様・パートナー様との活動、つまり日本法人の営業力・技術力・サポート力や社員の力。その部分を日本でどうするか? を考えていく必要があります。
開発はアメリカ本社が中心ですが、日本のお客様からのリクエストをプロダクト・サービスの機能に反映させるよう働きかけたことで、実装されたこともあります。そのため当然、本社の開発部隊とのやりとりもあるわけです。
――日本のビジネスシーンにおいて、ヴイエムウェアはどのような役割を果たしていくのでしょうか?
現在の日本では、デジタル・テクノロジーがビジネスに相当影響をおよぼすフェーズに来ています。そのため、お客様に対しては「妄想して、構想して、計画して、実行しましょう」とよく伝えています。
つまり、固定観念を解き放つ必要があるのです。これまでの常識の延長線上だけでは未来図を描けない。解き放つプロセスを経て、計画を立てて実行していくことが重要です。私たちとしても、日本社会のビジネスシーンの中で、デジタル・テクノロジーの位置づけを変えたい。デジタル自体がお客様のビジネスそのものを変革する力となってほしいと考えています。
お客様自身にも変革していただくし、会社のカルチャー自体も変革していただく必要があります。実はテクノロジーを変えるのが一番簡単です。それよりも、テクノロジーを使いこなすための人やカルチャー、意思決定などを変革するほうが難しいですし、課題が多く生じます。変革にはリスクも伴いますが、変わらなければ生き残れません。可能性を信じ、勇気を持って一緒にチャレンジしていただきたいと思います。
ビジネスは科学であり、スポーツであり、アート
――先ごろ、新社長に就任されました。改めて意気込みを教えてください。
多くのお客様やパートナー様から「これからも一緒にやりたい」と多くのメッセージをもらいました。「期待に応えるしかない」、その一心です。
ヴイエムウェアは、継続性が1つの特徴です。継続性を今後も持たせつつ、もっと進化をさせないといけません。私たちはテクノロジー・プロバイダーとしてプロフェッショナルでなくてはいけません。DXを導いていく責任があります。まだまだ日本にはDXを推進できる余地があります。
お客様やパートナー様に対してこれまで以上に寄り添い、すべてのメンバーが情熱を持って私たちの価値を訴求できることが理想です。手を取り合って寄り添ってきましたが、それをさらに進化させます。
――今後、入社するメンバーにはどんなことを求めますか?
求めるのは、「革新的な考えを持ちつつ、品格のある人」。
私たちはこれからも仮想化技術をベースに変革を続け、今までなかったものをソフトウェア化していきます。それは、今までの日本市場になかったものを定義していくことに他なりません。テクノロジーだけでなく、人とプロセスも再定義していかなくてはいけません。そのミッションに対して、メンバーのみんなには、ワクワクするような情熱を持っていてほしいと願います。
ヴイエムウェアは外から見るとサーバーの仮想化を成し遂げた、成熟した外資系企業に思われているかもしれません。もしかしたら、規模が大きくなったことで、スタートアップのようには自由に動けない会社、だと見えているかもしれません。
しかし当社には、先輩が後輩を育てていくような風土もあるし、互いに称賛しあう文化もあり、人と人とのつながりが強い面もある。一般的な外資系企業はジョブ型で社員の守備範囲が明確ゆえ、「これは自分の仕事ではありません」というシーンもあると聞きますが、当社では、それこそ何かトラブルがあった際は、みんなで助け合いながら解決に向けて動くこともあり、良い意味で外資っぽくない。
一方、フィールドのメンバーは、もっとも効果的だと思えるマネージャーを選んで同行に連れていけます。マネージャーは評価され、常に選ばれる必要がある。そんな緊張感のある会社です。
そういった意味で、日系企業と外資系企業、それぞれの良い面を持つ「人間くさい会社」と言えるでしょう。だからこそ、仕事を「志事」としてとらえ、日本のITを変革する気概を持った方には、最適なフィールドだと思います。ビジネスは科学でありながら、スポーツであり、アートです。感動がなければ、お客様を前に進められないし、私たちも熱中できない。ぜひ燃えるものを一緒に作っていきたいと思います。
- TEXT BY VALUE WORKS
- PHOTOS BY 吉田和生
- EDIT BY 瀬尾陽(Eight Career Design)