なぜスマイルズは「利益」よりも「価値」を大切にするのか。「世の中の体温をあげる」ために必要なこととは?

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食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」やセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ネクタイブランド「giraffe」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」など、多種多様な事業を手がける株式会社スマイルズ(以下、スマイルズ)。

その類稀なブランド構築能力を頼りにする企業も多く、近年はコンサルやプロデュースを手がけることも。本を選ぶための時間と場所を提供する本屋「文喫」をはじめ、同社のカルチャーやイズムは、着実に広がりを見せている。

世の中にとって「価値」のあるものを生み出すのは簡単にできることではない。毎年のように新たなブランドが登場しては消えていくのが現実だ。では、どうしてスマイルズは価値あるものを生み出し続けることができるのだろうか。社内外さまざまなプロジェクトに携わるクリエイティブ本部の吉田剛成、北山瑠美、蓑毛萌奈美の3名に伺った。


「それ、利益出るの?」ではなく、「それ、価値あるの?」

――まず、みなさんのこれまでのキャリアと現在の業務内容について教えてください。

吉田剛成(以下、吉田):僕は2008年に新卒で入社し、Soup Stock Tokyoの店舗で2年ほど務めていました。それから人事部で採用担当を経験し、途中で直島のベネッセ関連会社や経済産業省への出向を経て、2016年からクリエイティブ本部に在籍しています。現在の肩書きはプロジェクトマネージャーですが、それ以外にも企画やプロデュースを担当することもあります。

吉田剛成
2008年スマイルズ新卒入社。Soup Stock Tokyoでの店長業務、人事部採用担当、直島のベネッセ関連会社への出向、経済産業省クリエイティブ産業課への転籍を経て、2016年からクリエイティブ本部へ。プロジェクトマネジメント室長を務め、社内外様々な案件のコンサルティング、企画・プロデュースなどを担当。

北山瑠美(以下、北山):私は大学卒業後に大阪の印刷会社に就職した後、東京にあるインテリア雑貨メーカーでインハウスデザイナーとして働いていました。スマイルズは3社目になります。現在はクリエイティブ本部でデザイナーとして働いている傍ら、個人で旅ライターとしても活動しています。

蓑毛萌奈美(以下、蓑毛):私はPR会社を経て、フリーランスのPRコンサルタントとして活動していたときに、スマイルズに在籍していた大学時代の友人から「広報を募集しているんだけど、興味ない?」と相談があったんです。ただ、当時は大切なクライアントもいたので、正社員になるつもりはなかったのですが、だんだんとスマイルズの事業や大切にしている価値観に興味が湧いてきて。それで転職して現在に至ります。

――スマイルズは「Soup Stock Tokyo」だけでなく、「PASS THE BATON」や「giraffe」、さらには「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」「文喫」など、多彩な事業を手がけていますよね。なぜこれほどの事業が生まれるのでしょうか?

吉田:スマイルズは「Soup Stock Tokyo」しか自社ブランドがない時代が10年ほどあったのですが、その頃から「私たちはスープ屋じゃない」と言っていたんですね。他社から見たら、「何を言っているんだ?」という話だと思います(笑)。

でも、「私たちはスープ屋じゃない」という主張と、多種多様な事業を展開していることは、スマイルズにとって自然なことなんです。人間の生活様式を見てみると、パンも食べれば、ご飯も食べるし、ハワイに旅行することもあれば、地元の商店街で買い物もする……そこに一貫性なんてほとんどないわけです。でも、それがことブランドの話になると、ひとつのことしか基本的にやらないですよね。でも、ブランドの営みを人間の行動から考えてみると、すごく不思議なことで。

北山:そういう意味では、人間くさい会社なんだと思います。もちろん事業なので最終的には数字の計算もしないといけないんですけど、大前提として「自分たちがやりたい」という気持ちを大切にしていて。個人的に何か思うことがあって、それを世の中に広めたいという想いがベースにあるので、これだけ多彩な事業を手がけられるのかなと。

北山瑠美
芸大卒業後、インテリアやオーガニックコスメなどのグラフィックデザインを行い、現在は株式会社スマイルズで「Soup Stock Tokyo」やファミリーレストラン「100本のスプーン」などのデザイン、店舗VMDなどを担当。デザイナーでありながら商品開発も経験。秘境や島など旅先の日常を知るために日本の文化や新しい価値を探しに休日はよく旅に出ている。VMDインストラクター、インテリアコーディネーター、ビアソムリエ、旅ライターとしても活躍。

吉田:基本的にビジネスのために価値を付加することはしていなくて。やりたいことがまずあって、それをビジネスにしていく。その順番がスマイルズっぽいのかなと思います。5〜6年前から、他社のプロデュースやコンサルティングも手がけているのですが、そこでもアプローチはまったく同じ。自分たちがお客さんだったらどんなサービスを享受したいのか、徹底的に考えて取り組むようにしています。

蓑毛:課題解決のためのソリューション提供というより、スマイルズも一緒に新しい事業やブランドをつくっている感覚ですよね。だから、ウェブサイトをつくりたいというクライアントに対して、全然違う提案をすることもあります。

吉田:僕たちに声をかけてくださるクライアントは、「スマイルズなら何か生み出してくれるに違いない」という期待値みたいなものに賭けていると思うんですね。「このままではいけない、でもどうすればいいかのかわからない」という状態でのご依頼も多く、その期待にきちんと応えようとすると、自ずと「新しいブランドをつくっている」のと同じ感覚になるなんです。

ーー価値づくりに対して、こんなに真摯な会社もなかなかないですよね。

蓑毛:昨年、出版された『スマイルズという会社を人類学する-「全体的な個人」がつなぐ組織のあり方』(弘文堂)という本をつくる際、リサーチのために複数のメンバーにインタビューを実施していただいたのですが、著者のひとりの熊田陽子さんが「これほど価値という言葉を使う会社はなかなかない」とおっしゃっていて。私たちは普段から何気なく使っていた言葉なのですが、それくらい価値をどうやって届けるのかを大切にしている会社なんだと思います。

蓑毛萌奈美
大学卒業後、設立3年目のPR会社へ入社。ベンチャーから大手まで、多種多様なクライアントを担当。その後インテリアデザイン事務所に入社し、秘書兼広報業務を担当。2013年、フリーランスのPRコンサルタントとして独立。2015年スマイルズ入社。現在、クリエイティブ本部 事業企画室に所属、各事業ブランドのPRからスマイルズのコーポレートPRに従事。

吉田:企画会議でも「それ、利益出るの?」ではなく、「それ、価値あるの?」と、みんな聞きますからね(笑)。

蓑毛:他社からしてみたら、スマイルズは本当に非効率なことばかりやっていると思います(笑)。基本的に利益は後からついてくると考えているので、最初の頃はすぐに事業として成り立っていないブランドも多いですし。

あえて言語化しない。「ズレ」の中からスマイルズらしさが形成される

ーーちなみに、スマイルズにおける「価値」とは、どう定義されているのでしょうか?

蓑毛:それがきちんと言語化されていなくて……。「スマイルズらしさって何ですか?」と聞かれることも多いのですが、私たちも首を傾げてしまうというか。だから、特に中途で入社される方は困惑することもあると思います。新卒入社のように手厚い研修があるわけではないので。

北山:私自身、転職して間もない頃、上司から「仕事は自分で探して」と言われたんです。それにけっこう驚いて。普通だったら、仕事ってある程度は用意されているじゃないですか。でも、スマイルズには定型の仕事というものがないし、そもそもの仕事を探す方法すら自分で考えないといけないんですね。だから、いろんな人から情報収集して、仕事の仕方を学びました。

吉田:これは僕個人の意見ですが、絶対的な「何か」があるわけではなくて、その時々に在籍しているメンバーや取り組んでいるプロジェクトによって浮かび上がってくるものなのかなと思います。それこそ、星と星を結ぶ星座みたいな。

北山:みんな自分なりの価値基準は持っているんですけど、あえて言語化しないからこそ「ズレ」みたいなものが生じていて、その「ズレ」を前提にコミュニケーションを取っているからこそ、スマイルズらしさが形成されているのかなと思います。

吉田:自分の価値観で物事を語ることが求められますよね。これが別の会社だったら「吉田くんの好みなんて聞いていないから」と、シャッターを降ろされるようなことでも、きちんと話を聞いてくれるのはスマイルズならではだと思います。

蓑毛:それはやはり、代表の遠山(正道)の思想が大きいと思っていて。2005年にスマイルズの事業計画書をつくったのですが、それは具体的な数字や目標が一切書かれていない一枚の「絵」なんですね。具体的な数字目標を書いてしまうことで、それ以上のものが生まれなくなるかもしれない、という遠山の想いもあってあえて絵にしているのですが、それが結果として社員が考える余白を与えているんだと思います。だからこそ、自分が想像し得ないものを目の当たりにすることも多くて。私自身、海苔弁専門店ができるなんて入社した頃は夢にも思わなかったですから。

スマイルズ本来の姿や、進んでいく未来像を再確認するために描いた事業計画書「スマイルズのある1日」。

ーー少し話は脱線しますが、みなさんは共に仕事をする中で、お互いにどのような印象を抱いているのでしょうか?

北山:吉田さんは、水と火の人だなって思います。冷静と情熱の両方を兼ね備えているというか。みんながヒートアップしているときに水をぶっかけてくれるときもあれば、メラメラと炎を燃やして引っ張ってくれるときもあって。そのバランスがいいなと思います。

吉田:僕も二人に対してそういう印象を持っています。これは他のメンバーにも言えることですが、みんな名刺に肩書きを載せているんですけど、それだけをやっている人というのはいなくて。VMDもやるし、企画もやるし、イベントの司会もやるし、みたいな。一人3〜4役は当たり前なんですよね。でも、そうやってみんなで働くのが楽しいんです。

「自分の価値観で物事を語ることが求められる」。定形の仕事がない、スマイルズらしさを端的に表す言葉だ。

北山:スマイルズは大家族みたいなイメージがあって。メンバーがそれぞれいろんな活動をしているんですけど、帰れる場所として会社があるんです。だから、悩むことがあったら上司や同僚という家族が相談に乗ってくれるし、いい出来事があればみんなで情報を共有する。そういう関係を築けている気がします。Soup Stock Tokyoでは、年に1度だけカレーしか売らない「Curry Stock Tokyo」というイベントがあって、前日には部署をまたいで社員総出で店舗に準備をしに行くのですが、そういうことが当たり前のようにある会社なんですよね。

吉田:そういうことをみんなでやれるのが楽しいですよね。あと自分が知らなかった新しいプロジェクトのニュースが届くと、「え、そんなことまでやってるの……?」と驚かされることも多く、それに刺激を受けて自分もがんばれます。家族のたとえで話すと、家では勉強ばかりしていたお姉ちゃんが、いつの間にかバレーボールの大会で優勝していたみたいな(笑)。

蓑毛:スマイルズを独立した人もたまに実家に帰ってきて、「最近、何してたの?」みたいな会話をすることもあるんですよね。あと、上司部下関係なく意見をぶつけ合わせることもあって。

吉田:取締役にも臆せず意見を言いますからね。でも、みんなそれだけ真剣に向き合って物事を考えているから、そういう関係性を築けるんだと思います。

スマイルズを「概念」として浸透させ、文化にしていきたい

――最後に、これからスマイルズでどんなことに取り組んでいきたいのかを聞かせてください。

吉田:スマイルズを「概念」のようなものにしたいですね。会社って実態があると思うんですけど、人とかブランドの中に溶けて浸透して、いろんなところで愛されるようになったらいいなって。

たとえば、アーティストだったら名前だけでイメージが伝わるじゃないですか。Banksyっぽいって言ったら、頭の中に彼の作品が浮かんでくると思うんです。スマイルズも同じように、名前を聞いただけでイメージが想起されるような存在にできたら、それはそれはやりがいがあることだなって。そのためには、世の中にとって象徴的なブランドを増やしていく必要があるので、ファーストフードにおける「Soup Stock Tokyo」や、本屋における「文喫」のような場所をどんどんつくっていきたいと思います。

北山:自分が生きた証が価値になって、概念になって、文化になって、それが歴史になったりしたらいいですよね。だからこそ、もっと面白いことを企める集団になりたいと思っています。一人ひとりのバックグラウンドや夢を糧に、目の前のことを面白がったり、人生を振り返って全部クリエイティブに出し切れるといいのかなと。

蓑毛:スマイルズには「世の中の体温をあげる」というミッションがあって、今まではそれを実業を通じて実現していました。でも、そうじゃない方法もあると思うんですね。たとえば、スマイルズを卒業した人たちが新天地で新しい家族(チーム)をつくって、スマイルズで培ったカルチャーとかイズムを広げてくれたら、それも世の中の体温をあげることに通じるんじゃないかなって。そういう事例をもっと増やしていきたいと思います。

私がスマイルズに入社したときは、遠山にしか取材や登壇の依頼が来なかったので、ワンマン経営の会社だと思われていたこともありました。実態は全くそんなことなかったのですが(笑)。でも、それから数年が経って、今回のように社員にもスポットライトが当たるようになってきていて、いろんな価値観を示せるようになっていると思うんですね。しかも最近は、働き方も多様になっていて。これから組織としても新しい働き方を提示できるようにしていきたいと思います。

スマイルズのミッション「世の中の体温を上げる」。これまでは事業を通しての実現を考えてきたが、スマイルズで培ったカルチャーやイズムを広げていけるのではないか。組織の新たな変化をメンバーも感じている。
  • TEXT BY 村上広大
  • PHOTOS BY 玉村敬太
  • EDIT BY 瀬尾陽(Eight Career Design)
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