Minimalのすべてのメンバーは等しくミッションに従う──ブランドの価値を広める「デジタル化」に必要な意識改革

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人がキャリアを考える軸は、様々にある。自分のやりたいことをずっと貫く人もいれば、偶然に身を任せてうまくいく人も。しかしそれぞれの経験はやっぱりどこかでつながっていて、その人なりの軸や矜持、プロフェッショナリズムみたいなものも、次第に生まれていくものなのかもしれない。 今回、お話をうかがうのは、2021年に中川政七商店の取締役CDOを退職し、「Minimal -Bean to Bar Chocolate-(以下、Minimal)」を運営する株式会社βaceの取締役COOに就任した緒方恵。元々は芸術学部を卒業し、バイヤーをしていたという彼の、これまでのキャリアと現在のミッションについて掘り下げていく。


単なる「異動」が、デジタルの道を拓いた

——緒方さんは前職では取締役CDOを務められ、現在でもDXなどに取り組んでいらっしゃいますが、デジタルの仕事を昔から専門としていらしたのでしょうか?

デジタル領域が私の強みのひとつになったのは、人事異動による、ある種の偶然がきっかけです。私のキャリアの入口は、東急ハンズのバイヤーで、おもに照明器具を担当していました。プロダクト全般が好きなので東急ハンズは私にとって宝箱のような存在でしたし、その中でも特に照明器具が好きだったので楽しかったですね。岐阜の提灯メーカーを巡ったり、上海のLEDを観に行ったり。2000年代中頃から後半は、照明に限らず新しいものがどんどん出てきた実感があります。

その中の最たる例がiPhoneです。3GSの発売から堰を切ったように問い合わせ件数が増え、ハンズの売り場もそれに合わせて大きく変える必要が出てきた。それまでのモバイルアクセサリー売り場はガラケーのストラップを中心とした売り場だったので、そこの面積を大きく塗り替えてiPhoneなどのスマートフォン関連商品をそろえてニーズに応えることが急務となりました。そこで、渋谷店のリニューアルに合わせて、大規模なスマートフォンアクセサリー売り場の立ち上げ担当者として指名されたのが私でした。

緒方恵(おがた・けい)
株式会社βace 取締役COO。東急ハンズを経て2016年、中川政七商店の執行役員CDOとして入社し、DXを推進。2018年には取締役に就任し、販売・コミュニケーション・システム部門を統括。2021年7月に取締役CDOを退任し、パートタイムオフィサー(PTO)に就任するとともに主業としてMinimal -Bean to Bar Chocolate-を運営する株式会社βaceの取締役に就任した。

照明は大好きだったので離れるのは寂しかったですが、iPhoneの普及とともにスマホアクセサリーの市場も急激に伸び、相対的に色んなプレイヤーがその市場に参入をしてくるようにもなりました。その結果、様々な切り口の商品が矢継ぎ早に世に出ていく、熱狂の真っ只中に身を置けたのはとてもいい経験でした。毎日商談をして仕入れては売って、仕入れては売ってのお祭り騒ぎでしたね(笑)。

——まだデジタルの気配はないですね(笑)。

スマホアクセのバイイングを通じて、iPhoneについて社内で一番詳しい人間になっていたので、それにフォーカスがあたった結果なのでは……?と予想をしているのですが、EC事業部への異動が決まったんです。それまで仕事でPCもそこまで触ってなかったので、突然ECの担当となり、何もわからなくて。同僚から「緒方さん、何ならできるんですか?」って呆れられたこともありまして、天狗の鼻が根本から折れました(笑)。

——それまでのバイヤーの仕事とは全く違ったんですね。

いま思えば、仕事において本質的に求められる事にあまり変わりはないとは思うのですが、当時は現場の足元で求められる「スキル」と「ワークフロー」の違いにとらわれ、かなり戸惑いました。でも、負けん気は強かった。本を読んだり勉強会に行ったりして、徹底的に学びました。勉強してみたら、ハンズのECはまだまだやれることがあるとわかり、企画をあげて色々やりました。そのうちECに飽き足らず、デジタルマーケティングやって、アプリをつくって、システムをつくって……と徐々に領域が広がっていきました。

つまり、私のキャリアのきっかけを問われるなら「社内異動による偶然」というのが答えなんです(笑)。正確には、そこでデジタル領域という自分の性質にあっていて、かつ伸びている領域に縁ができたこと、自信喪失から這い上がって成長できたという成功体験、ですかね。

何をやるかより、誰とやるか

——緒方さん自身はキャリア形成において、やりたいことのこだわりはなかったんですか?

何をやるか、よりも、誰とやるか、を重視するタイプなのだと思います。音楽がやりたいのではなく、バンドがやりたい。昔からそういうタイプでした。極端な話、どんな仕事でも一生懸命やれば、ある程度結果が出るものだし、自分次第で面白くはできるので、という意味でも「何軸」にそこまでこだわりはないです。

——誰とやるかを重視するようになったのは、どんなことに影響を受けていると思いますか?

学生時代の経験が大きかったかもしれないですね。僕は大学で芸術学部を選んだのですが、そこにはものづくりへのこだわりが強く、狂気的ともいえる人がたくさんいました。「強烈な個」とでもいうのでしょうか。狂気ゆえの美しさみたいなものを感じる人。そういう人に自分はなれないなとも思いましたけど、そういう人たちと一緒にいたいと思ったんです。

ただ、強烈な「個」って、それがそこにあるだけでは何も成し得ないことがよくありました。ひとりの圧倒的なファンタジスタがいても、組織されたチームに負けることは必然なので。だから、いくつかある「個」が噛み合わさるよう、チームで切磋琢磨することで、素晴らしいバリューを出せるようにすることが重要。そのためには、目的とベクトルを合わせて、互いを理解し、テンションをそろえる必要があります。それが上手くいけばとんでもない結果を出せることがある。自分はファンタジスタにはなれないけど、ファンタジスタの役に立ち、必要とされることが嬉しかった。

——そのベクトルやテンションの統制を行うことに緒方さんは興味があったんですね。

そうかもしれないですね。強烈な個が集まって、より高いパフォーマンスを出すことが必要だと思うから、そのプロセスを自分がやってきた。だから、自分自身のやりたい想いはそこまで重要ではないんです。ただ、ものづくりやクリエイティブなものが好きな想いはずっと根底にある、そこに貢献したい。

それは学生時代から一貫しています。服、生活雑貨、アートや音楽、映画などを含むものづくり全般が好きで芸術学部に進んで、東急ハンズではいいものづくりをしているメーカーや商品を通して仕入れ販売する仕事を……中川政七商店は全国の様々な職人と一緒にものづくりをして販売する仕事を……そして、Minimalは工房と職人を自社で抱えている会社……。振り返ってみると、転職を重ねることで自身と「ものづくりへの距離」をだんだん近づけていますね。

どんな仕事でも一生懸命やれば結果はついてくるし、自らの工夫で面白くすることはできる、だからこそ「何をやるかより、誰とやるか」が重要。緒方の一貫した仕事観だ。

広く届けることで、世界のクリエイティビティはちょっと高まる

——Minimalへの転職は、どのようなことがきっかけでしたか?

代表の山下とは、元々友人なんです。向き合っている商材こそ異なるけれど、「クラフトマンシップの価値を高めてグロースアップする」という同じミッションに邁進している同志だったので、出会ってすぐに仲良くなりました。一緒に食事や旅行へ行って、お互いに事業の相談をするような仲。

あるとき、いつものように食事をしながら話をしていて、ふと山下が「緒方さんオレね、世界一のブランド目指したいんだよ」と純粋な目で言ったんです。それを聞いたときに、「私自身は世界一を目指さない人生でいいのだろうか?」と自分自身に問いかけたんです。そして、「世界一を目指す」という世界線に身を置いてみたいと思ったんです。自分にとって重要な「誰軸」も、山下とならばほぼ満点、何も言うこともありません。

いま、私がMinimalで担っている仕事は、本質的には中川政七商店でやっていたことと変わりません。ブランドやプロダクトの「価値を適切に伝え、広める」ことにあると思います。

——価値を広める、というのは?

前提として、より多くの人へ商品の届けるため、質を維持してつくれる数を増やすこと。その上で、価値を伝える方法やアプローチやメディアを改善し続けて、求めてくださる方により適切に届くようにすることです。

そうすると様々な工程を変えたり、アップデートする必要がありますが、まずは足腰を強くすることが大事。そのためにまず何をやっているかを一言で言うとDX。生産性の向上のため、コミュニケーションのデジタルシフトのため、サプライチェーンの効率のため。やることは様々です。特に言及するならば、「広める」の観点からもMinimalは昨年からECに力を入れて、販売戦略を大きく変えました。

——新型コロナウイルスの流行も背景にあるのでしょうか。

それもあります。Minimalは、お客様を含めてみんなで新しいチョコレート文化をつくることを目指しているブランドです。職人は商品をつくり、店舗スタッフは共感をつくり、お客様はその体験を通じて新しい文化をつくる。よって実店舗は、ブランドやチョコレートに関する話をスタッフから直接聞いたり、実際に試食ができる「感動する場」として重要だったんです。

対面での接客が価値のひとつですが、お店にお客様が来られないのならば、これまでよりも減るならば、別の戦略を構築するしかありません。店舗でできることとECでできることを整理して、ベクトルを決め、テンションを揃えて、再スタートです。これまでのようにはいかない、会社が生まれ変わるくらいの意識が必要だと。「シズルのDX」を標榜して、Webを通じてどのように感動を提供するのかに対して向き合い直しました。

——単純な「デジタル化」というのとも違う印象ですね。

デジタル利活用、DXはあくまで手段です。どちらかというと意識改革のほうが重要ですね。何のために、どうやって、何をやるのか。社内の意識が変わっていかないと、手段だけでは意味がないと思います。

現在、Minimalのミッションやビジョンの見直しも行っています。ミッション・ビジョンは、メンバー全員の指針です。言ってみれば、上司は社長ではなく、ミッション・ビジョン。全員が等しくミッション・ビジョンの奉仕者であるべき。大きな変化が起きているいまだからこそ、改めて目的のベクトルとテンションを合わせることのどちらもしっかりとやらねばと思います。

——チョコレートの価値が何で、店舗やECの価値がどんな点にあって、どういったことを知ってもらうのがいいのか、と整理して伝えるのが、緒方さん。そして手段としてのデジタルなのだと理解しました。

Minimalのチョコレートは、すさまじい手間とこだわりが凝縮されていて、非常に情報量が多い一方、見た目はシンプルそのもの。能ある鷹は爪を隠すじゃないですけど、そこに狂気にも似た美しさがあります。そういうプロダクトは美しいと思うし、その素晴らしさを伝えていきたいです。高いパフォーマンスを発揮させるために、やるべきことをやりたい。そして美しいプロダクトが広まれば、それを受け取った人の感受性も高まる。そうすることで、世界のクリエイティビティがちょっと高まる。そういうあり方を、私は実現したいのだと思います。

「月に一度の、偏愛を」。満を持してスタートした、サブスクリプションサービス「CHOCOLATE ADDICT CLUB」。ファンからの期待値は高く、受付開始日に限定枠が完売した。
https://mini-mal.tokyo/pages/chocolate-addict-club

そのための新しい試みの1つが、現在展開しているサブスクリプションサービス「CHOCOLATE ADDICT CLUB」です。Minimalの“試行錯誤”と言う名のクリエイティビティが凝縮された商品が、毎月一度送料無料で届くサービスです。製造開発リソースはまずこのサービスに割当てているので語弊なく最高品質です。

圧倒的な美味しさというものは、食べた人を強制的に幸せにしてくれるはずだと信じているので、このサービスを通じて月に一度、誰かをワクワクさせることができるなら、それはとてもクリエイティブな活動だなと感じています。

  • TEXT BY 山縣杏
  • PHOTOS BY 細倉真弓
  • EDIT BY 瀬尾陽(Eight Career Design)