組織成長の要は、ブレない「軸」。いま取り組むべき、リーダーの意識改革について考える

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従来のヒエラルキー型の管理やマイクロマネージメントが前提では、メンバーの自主性が妨げられ、イノベーションなど起こるはずがない。組織を変えるためには、まずはリーダー自身が「軸」を持ち、それをさらけ出して、メンバーと本音でぶつかり合うことが大切だ。

会社が社会に対してどんな価値を提供できるのかは語れても、自分が成し遂げたいこと、その会社で働いている意義を語れないリーダーが多いのだという。個人の「志」を言語化できるように寄り添うこともまた、グロービスの仕事であるということだった。

ではなぜいま「志」を明確にすることが大切なのか。なぜ人は「志」が明確なリーダーについて行きたくなるのか。今回はリーダーに求められる意識改革について、Googleやモルガン・スタンレーなどで人材開発に携わってきたピョートル・フェリクス・グジバチと、西の同僚で、グロービス法人部門において戦略人事として組織開発に携わる福田亮に語ってもらった。

二人の掛け合いは、この日のピョートルの服装という意外なところから始まった。スティーブ・ジョブズさながら、毎日同じ上下のセットで過ごしているというピョートルだが、そのこととリーダーのあるべき姿とには、どうやら深い関係があるらしい。


正解のない時代。自分なりの軸で決め切る以外にない

福田:ピョートルさんは毎日同じ服のセットを着ていると聞いたんですが、本当ですか?

ピョートル:本当ですよ(笑)。同じ黒いシャツを15、16枚持っています。ジーンズも同じものを4本くらい。朝起きたらそれを入れ替えるだけです。

福田:じゃあクローゼットを開けたら真っ黒?

ピョートル:真っ黒。みんな同じです。太ったり痩せたりするとシャツを入れ替えないといけないけれど。下着や靴下も含めて、いつも渋谷・道玄坂の同じ店で買っていて。どこになにが置いてあるかを全部把握しているから、買い物は5分で終わりますよ。

ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ 代表取締役。2000年に来日。ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年GoogleJapanに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立して現職。コンサルティング、エグゼクティブ、コーチング、講演などを行う傍ら、執筆業も行う。最新著書「CREATE WORK」を2020年1月に出版。

福田:なぜそこまで徹底を?

ピョートル:パフォーマンス理論の用語に「マイクロ・ディシジョン・メイキング」というものがあります。たとえば、コーヒーを飲むのにどこの店にしようかとか、水はどの銘柄を買おうかとか。小さな意思決定のことをいうんですが、特に経営者にとっては、そういう些末なことについて「どちらにしようか」と考える時間がもったいないじゃないですか。

福田:無駄なことは極力考えないで、大事なところに集中力を使う。いわゆる「フロー状態」をいかに作るかという話ですね。

ピョートル:まさに。ちょうど今日、ここへ来る前に当社のメンバーと「個人のフローを作るサービスが必要なのではないか」と話していたんです。というのも、いま世の中は新型コロナウイルスのせいで暗い雰囲気になっているじゃないですか。ビジネスがすごく嫌がられているところがある。ナスダックもダウも下落していて、「この先どうなるんだ」「いつまで続くんだ」「どうやって自分のビジネスを保っていけばいいんだ」と不安に思っている経営者がすごく増えていると思うんです。

福田:そうでしょうね。

ピョートル:一方、働く個人も家でテレワークをやるようになったのはいいけれど、コミュニケーションの取り方がよくわからず、「本当に仕事をしているのか」と上司に思われていないか、疑心暗鬼になっている。そんな状況においては、まさに「軸」が大事です。ぼくはフローのことをよく「夢中になっている状態」と表現するんですが、自分の軸を持ち、夢中な状態で仕事をしていれば、こうした不安は感じないでいられますよ。さらに、経営者が軸を持ち、フロー状態を保つことができれば、会社の売り上げは最大で4倍まで上がることが、マッキンゼーの研究でもわかっています。ユニクロの柳井(正)さんみたいに、会社を大きな成功に導いている経営者はみんな強い軸を持っていますよね。

福田:フロー状態には二つの状態があると考えています。一つは集中できている状態。もう一つは、アンテナが張っていて、認知の限界を越えることができる状態のことです。いまのコロナウィルスの状況がまさしくそうですが、これからは、ますます予測が不可能な、自分が見えている世界だけではその先どうなるかがわからない世の中になる。その状況では多様な意見が出てきます。「いまは自粛すべきだ」という人もいれば、「いやいや、そうではない」という人もいる。これはどちらがいい悪いと即断できない問題です。経営者はそういう矛盾したところでなにかを決めなければいけない。自分なりの軸、つまりは判断基準とか価値観を持って最後は決めなければならないわけです。

福田亮
株式会社グロービス グロービス ・コーポレート・エデュケーション部門ディレクター。慶応義塾大学経済学部卒業後、三井化学入社。機能性素材の開発営業、クライアント企業との東南アジアにおける合弁事業の設立、新興企業の経営支援・人材育成に携わる会社設立・立ち上げに従事。2010年グロービス入社。法人研修部門ディレクターとして人材育成に関するコンサルティング、プログラムコーディネーター、講師など、企業内の人材育成全般に携わっている。

ピョートル:先日、当社のメンバーが星野リゾートに泊まりに行ったんですが、コロナ対策など一言も謳っていないにも関わらず、満室だったそうです。一方、その隣にあるどこかのリゾートホテルは「コロナウイルス特別プランで1泊3000円」などとやっていても、ガラガラ。つまり、問われているのはまさに軸です。経営者と管理職が軸を持ってブレない時に、新しいチャンスは見えてくるんですよ。

軸を持たない日本人のアウトソーシング文化

ピョートル:けれども、多くの日本人には残念ながら軸がない。最近気がついたんですけど、日本ってアウトソーシング文化じゃないですか。たとえば、先日テレビを見ていて象徴的な場面がありました。学校が休校だから子供たちが家にいて、ゲームをやっている。そこに会社に行っているお母さんが電話をかけてきて、「宿題をやれと言っているのに、なんでゲームをやっているんだ!」と怒鳴りつけるんです。でも、子供たちはなにも答えずにゲームを続ける。

なぜこうしたことが起こるのでしょうか。ガイジンであるぼくの目から見れば、親が子供をアウトソーシング的に学校に預けていることに問題があります。親が子供と関係をしっかり構築し、勉強の仕方や学ぶ喜びを教えていれば、こうしたことは起こらないですよね。普段から両親も主体的に関わって、子供の自主性を引き出していたら、家で放っておいても子供たちは学べるはずですよ。

福田:なぜ日本人は自主性が高くないのかと言うと、日本では子供のころから社会や世の中と調和しないといけないという考え方で育てられるからではないでしょうか。家庭でも社会でも同じ力学が働いていて、そのまま周りに合わせることに適応しすぎてしまう。本来は学校なり社会活動のどこかのタイミングで自主性を育めるように、周りが促してあげる必要があると思うのですが、日本はその環境が十分ではないというのが実態ですね。

ピョートル:そうですよね。

福田:いまの会社組織についても同じことが言えます。日本企業も同調性や協調性を非常に大切にしてきました。また、タスク中心の考え方でマイクロマネジメントをしがちなことも、社員一人ひとりの自主性を妨げてしまっている。さらにそのタスクも、継続することに加え、変えていくべきこともあり、増え続けている。その結果、やるべきことを選びきれず、ただ目の前にあるタスクを粛々とこなすだけになっているのではないでしょうか。当然ですが、それでは成果は上がりません。組織運営の複雑さに悩んでいるリーダーがすごく多い気がしますね。

ピョートル:いま「テレワークがうまくいかない」と言っているのは、まさにその問題ですよ。なぜそうした状態が起きるのかと言えば、まずマネジャーとメンバーの関係性が整っていないから。信頼関係ができていない。だから先ほどのお母さんのように、いちいち電話をして「なにをしているんだ!?」とやらなければならなくなる。

福田:まさにマイクロマネジメントですね。

ピョートル:それをやらないで済むためには、人間関係を構築するのともう一つ、プロセスがしっかりとデザインされている必要があります。たとえば、ぼくが経営するプロノイア・グループではOKRを導入していますが、OKRでは、メンバー一人ひとりが会社のビジョン・ミッション・戦略にどう貢献していくのかを自発的に約束します。これが第一段階。次に、メンバーは自分のOKRに基づいて「今週はなにをやった」「来週はなにをやる」と、チームミーティングのある金曜日の朝までにスニペッツ(=週報)に記入します。その上で、ミーティングや1on1では、ほかのメンバーに伝えておきたいことやサポートしてほしいことなどを話す……というように、テレワークに限らず、仕事を機能させるには必要なプロセスをちゃんと踏まないといけない。

OKR(Objective and Key Results)は、Googleが導入したことで広まった目標設定・管理のフレームワークだ。目標(Objective)を決め、達成のために必要な成果指標を(Key Results)分解する。会社の目標と個人が挑戦するべきこととのつながりが可視化されるため、エンゲージメントの向上、メンバーの自発性を引き出すことにもつながる。

福田:おっしゃる通りですね。「プロセスをしっかり踏む」というのは、別の言い方をするなら「各階層のリーダーがしっかりと自分の役割を果たす」ということだと思います。たとえば、経営者であれば、さまざまな選択肢があり、リスクもある中でも、ビジョンや方向性をしっかりと打ち出せることが大事でしょう。一方でミドルマネジャーは経営者が示したビジョンに理解を示しつつも、日々の仕事の流れやプロセスを見える化して、成果はなにで、いかにしてその成果を最大化するかを考え、同時にメンバー一人ひとりがやりがいを感じられる状態に持っていかなければいけない。リーダーは、状況に応じて自分の役割を再認識することを求められているのだと思います。

管理統制された組織では、イノベーションなんて起こらない

ピョートル:OKRがいい仕組みなのは、マネジャーと議論しながらも、メンバー一人ひとりが「自分はこれをやるんだ」という目標を設定するところ。自分から約束するからこそやり切れるんです。それはまさに軸の話だし、フローの話。でも、多くの日系企業はKPIやMBO(目標管理制度)を使って、「あなたのゴールはこれです」と上から下ろすじゃないですか。

福田:確かにそうですね。

ピョートル:そうやって非常に固定的な目標を上から下ろしておきながら、一方では「イノベーションを起こせ」「新しいものを作れ」と言う。これは心理学でいうところの「ダブルバインド」の状態ですよ。ダブルバインドというのは、二つの矛盾した命令をすることで、相手の精神にストレスがかかるコミュニケーションの状態のこと。日系大手企業のマネジメントはまさにそれですよね。

福田:それは従来のヒエラルキー型の上意下達を前提にした組織のまま、いまの時代に適応しようとしているから起こることですよね。組織形態やカルチャーは従来のまま。でも、時代はそうではないものを求めているから、「自由にやれ」「考えろ」「フレキシブルだ」というスローガンだけが繰り返される。旧来のパラダイムと新しい変化へのスローガンの二つに挟まれて立ちいかなくなっている組織は多いのではないでしょうか。

ピョートル:そもそも「イノベーションを起こすぞ」と言っている時点でアウト。本来は、日常業務の中にいろいろとブレーンストーミングをする機会があり、顧客と直接会ってエンパシーを感じられる場面があり、トライアルできる環境があるからこそ、一人ひとりが自然と「新しいことをやってみよう」となって、その結果として起きるのがイノベーションじゃないですか。「これがあなたのゴールだからやりなさい」と言われている中では、そうやって弄り回す時間も余裕もないから、イノベーションを起こすのは困難です。

「晴れの日の方が良い意思決定ができるから、天気が悪い日は決めないんです」とピョートルは言う。しかし管理統制された組織では「決定を別の日にする」などという自由さは当然、許されない。

福田:イノベーションが起こるためには、たとえば組織内の心理的安全性が担保されていて、そこにいる誰もが率直に思ったことを言えるようなカルチャーも必要と言われますが、ピョートルさんは、カルチャーは変えられるものだと思いますか? 日本ではカルチャーは変えられないものだという感覚も根強いです。よく「会社のDNA」といった言い方をされますが、DNAなのだとすると、それは書き換えられないものということになってしまう。

ピョートル:変えられると思いますね。その際に重要なのは、「とりあえずやってみる」ことじゃないでしょうか。とりあえずやってみて、フィードバックを受けて、また変えてみて……。これを繰り返すことで徐々に変わっていくのが物事だと思う。なのに日本人はPDCA、それもPばかりですよね。プラン、プラン、プランで、DCAは一切やってないと言ってもいいくらい。プランもある程度は大事ですけど、なにかを変えたいのなら、DCAを猛スピードで回していくのがポイントだと思うんです。要は、ラピッドプロトタイピング的な考え方。ラピッドプロトタイプって、ものづくりとかプログラミングのためのものだと思われているけれど、そうじゃないんです。たとえば人間関係に関しても、ラピッドプロトタイピングは可能なんですよ。

福田:面白い捉え方ですね。

ピョートル:たとえば、新入社員の中には怒られるのが嫌で、わからないことがあってもなにも聞けず、そのままうつ病のようになってしまう人がいます。そうではなくて、まずは怒られてもいいから、とりあえず聞いてみる。その結果、「なんでそんなことがわからないんだ!」と怒鳴られるかもしれないけれど、その反応を受けて「じゃあ次はこういう対応をしてみよう」と変えていけるじゃないですか。そうやってタブーを破って破って破った先に、人間は少しずつお互いを信用できるようになっていく。最初は「キー!」と怒っていた先輩も、その頃には「しょうがない。教えてやるか」となっているかもしれない。そうやって積み重ねた先に作られるのがカルチャーですよね。

福田:そのためには、やはり「カルチャーは変えられるものだ」という立場に立つことが大前提になりますね。そうすれば当事者意識が生まれる。だから「とりあえず」という動きも起こる。日本のリーダーにはこの「カルチャーは変えることができる」という前提の認識と「自分からカルチャーを変えていくという当事者意識」が不足しているのではないでしょうか。この背景には、企業活動が合理性の追求、言い換えれば分析的、論理的な振る舞いに偏りすぎてしまい、自分や周囲の本音・本心に関心を向けることを忘れてしまっているように感じます。

始まりはリーダー自身の自己開示から

福田:「とりあえずやってみる」ことから始まるラピッドプロトタイピングのプロセスは、「学習」とも言い換えられます。この「学習」の要素を組織に取り込んでいく上では、1on1がとても効果的ではないかと考えていますがいかがでしょう。

ピョートル:ええ、わかります。ぼくもちょうど今日、メンバーと1on1をしてきたところですし。

福田 1on1では、直近の経験を振り返りながら、その経験から物事の理解や行動のあり方を学び取っていくプロセスを、上司(コーチ)と共に繰り返し体験します。その際に重要なのは、棚卸しした経験と一緒に出てくる「感情」ともしっかりと向き合うことだと考えています。たとえば「あの時の自分はこう思っていたのに、実際にはこういう行動を取ってしまった」とか。その感情に対しても「そういうこともあるよね」とか「そのままでいいんだよ」といったふうに、上司から働きかけをしていく。

ピョートル:そうですよね。そうすることで初めてダブルバインドや迷いも晴れていく。

従来の日本の組織にはまだ、論理的に説明できない感情は、語るべきではない、という雰囲気が残っていると二人は言う。

福田:グロービスが組織開発をお手伝いする際、リーダーの意識変革において大切にしているのも「一旦、共感を示すこと」です。「この状況だったら、確かにそういうことも起こりえるよね」と一旦受容することで初めて「この人なら自分の置かれている状況を理解してくれるかもしれない」と思ってもらえるし、さらに「私も同じように日々悩みながら正解のない世界に向き合っているんです」と共感することで心を開いてもらえる。そうなって初めて、相手が自分とは違う意見だったとしても受け入れられるようになり、自らよりよく変わっていくことに意識が向くようになるのです。それをせずに「あなたは間違っている。こちらが正しい」という判断を押しつけしてしまうと、変化は生まれない。この「メンバーの経験を棚卸しし、感情と向き合い、本音を聞く能力」が、これからのミドルマネジャーにはとても重要になると考えています。

ピョートル:おっしゃる通りで、いまリーダーに問われているのはまさに「会話の質」ですよ。限られた時間でちゃんとした会話ができるか。それがない限りは仕事なんてできない。テレワーク、テレワークと言われ出して、ようやくみんながそのことに気づき始めているんじゃないですか?

福田:本音でぶつかるというのは、言い換えるなら、「さらけ出す」ことが組織変革の大事な要素の一つになっているということですよね。それはいまやっている活動、すなわち情報をオープンにするという意味でもそうですが、それに加えて感情や思っていることをいかにさらけ出せるか。これが大きな力になる可能性がある。特に、まずはトップオブトップのリーダーのさらけ出す力が大事ではないかと。

ピョートル:その通りです。英語では「Go First」と言いますが、要は、人の自己開示が欲しいのであれば、まず自分が自己開示しないとダメだということ。自分はこういう人間で、こういう体験をして、こういう挫折を超えて、いまここにいると説明する必要がある。

組織内の思考の多様性がすなわち変わる力になる

福田:グロービスで「志」と呼んでいるのは、まさにいまおっしゃった、リーダー自身の「自分がなぜここにいるのか」「なにを一番大切にするのか」というところなんです。ぼくたちは「志」には三つの要素が不可欠と考えています。一つは、現在だけでなく、過去や未来も含めた長期的な視点で捉えているか。二つ目は、私利私欲ではなく利他の視点で捉えているか。そして最後の一つがとても面白いのですが、その人自身が「やる」「そういう生き方をする」と自分で決めているか、です。

私利私欲ではなく、自分は社会に対してなにを成し遂げたいのか。グロービスは、組織改革に関わる上で、リーダーそれを導き出し、実現へとつなげられるような後押しをしている。

ピョートル:ああ、それはまさにぼくが普段言っていることですよ! ぼくは常々「やりたい」という言葉はおかしいと思っているんです。「ミュージシャンになりたい」と言っている人は、おそらくミュージシャンにはなれない。そうではなく、音楽が好きなのであれば、まずは「自分はどんな音楽が好きなんだろうか」といろいろと聴いてみる。「自分はジャズが好きなんだ」とわかったら、次は「どんな楽器がいいだろう」とか。サックスがいいと思うのであれば、お店に行って触ってみよう。でも高くて買えなかった。 それならサックスを持っている知り合いに相談してみようか……そうやってマイクロ・ディシジョン・メイキングで行動をとり続ける。先ほどのイノベーションの話と一緒で、このディシジョン・ツリーがずっと続いていけば、おそらく自分でも気づかないうちにサックスが吹けるようになっているはずですよ。

福田:ええ、そうですよね。だからこそぼくらも「志」の三つめの「自分で決めること」が一番大事だと思っているんです。

ピョートル:ぼくは「モヤモヤ」という言葉が本当に嫌いなんです。だって、結局は意思決定し続ける以外にない。モヤモヤしている暇なんてないはずなんですよ。新型コロナウイルスにかかってしまうかもしれないし、株価がこのまま暴落したら、勤めている会社で働き続けることが難しくなってしまうかもしれないのだから。

福田:人間だからモヤモヤしてしまうこと自体は仕方がないとしても、そこからいかに立ち直れるかが大事ですよね。その際には理屈ばかりじゃなくて、「なんとなく面白そうだ」とか「自分と合っていそうだ」といった内なる声に従うことも重要なのではないでしょうか。我々としても、知識を提供することでリーダーの時代認識をアップデートするお手伝いもするけれど、一方でその人自身の内なる声を引き出すために、対話を非常に大切にしているんです。ダブルバインドのような状況で過ごし続けていると、だんだんと自分の本音とは違うものが内臓脂肪のようについていってしまう。それを取り除き、「自分は本来こういう人間なんだ」と気づく働きかけをする。

ピョートル:そうやってそれぞれの人がしっかりと自己認識し、自分の価値観や信念を持っていれば、たとえ相手が異なるフィロソフィーや宗教を持っていたとしても、「ああ、あなたはそう考えるのか。面白いね」と思えるはずだから。自分の進め方や考え方を押しつける必要はなくなりますよね。その上でどうアウトプットを出していくのかを、お互いに素直に自己開示・自己表現しながら、一緒に考えていく。そうすれば、組織としても真のダイバーシティが活かせるようになります。ダイバーシティとは思考の多様性。思考の多様性の高い組織こそが柔軟性をもって変わっていけるんです。

福田:その通りですね。そして繰り返しになりますが、それはリーダー自身の軸から始まるということ。ぼくらとしても、その人自身が大切にしている軸を探り出す、見つけ出せるよう働きかけるということが、組織をよくしていくためにいまとても大事なことだと考えて、取り組んでいるんです。

  • TEXT BY 鈴木陸夫
  • PHOTOS BY 吉田和生
  • EDIT BY 谷瑞世(Eight Career Design)
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