ライゾマティクスデザインからフロウプラトウへ 。「定義されない」デザインコレクティブは、個の成長とともに進化を続ける

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リアルとオンラインを横断する総合的なクリエイティブ力をベースに、豊かな世界観と体験をつくるデザインコレクティブ・フロウプラトウ(Flowplateaux)。国内トップクラスのクリエイティブ集団「ライゾマティクス」の中でも、おもにコミッションワーク、セルフブランディングにおけるデザイン・実装面を担い、2021年の組織改革によって新たなスタートを切ることになった。今回、ディレクターの清水啓太郎とデザイナーの木村浩康の両名に、フロウプラトウの成り立ちやカルチャー、組織のあり方などを聞いた。


ライゾマティクスデザインから、新たにフロウプラトウへ

――まずは、フロウプラトウという会社の成り立ちについてお聞かせください。

清水啓太郎(以下、清水):フロウプラトウは、ライゾマティクスの一部門だった「ライゾマティクスデザイン」が前身となる組織です。これまでライゾマティクスは、「アーキテクチャー」「リサーチ」「デザイン」という3部門に分かれていたのですが、2021年に組織変更を行い、会社名がライゾマティクスからアブストラクトエンジンに変わりました。

それに伴って、ライゾマティクス・アーキテクチャーが「パノラマティクス」に、ライゾマティクスリサーチが「ライゾマティクス」にチーム名を変更し、ライゾマティクスデザインはフロウプラトウという新会社になりました。

フロウプラトウは基本的にはライゾマティクスデザインがそのままスライドしたチームで、クライアントの課題を起点に、フィジカル空間からオンスクリーンまでを横断するデザインによって解を導いていくということが変わらず仕事の中心になっています。

――フロウプラトウという社名にはどんな意味合いがあるのですか?

清水:高原・台地を意味する「プラトー(plateaux)」という言葉があるのですが、これはライゾマティクスの名前の由来にもなった「リゾーム(rhizome=地下茎)」を掲げたフランスの哲学者ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』から引用したものです。ライゾマティクスがR&Dプロジェクトや作品制作、外部のアーティストや研究者とのコラボレーションなどを通じて深く張り巡らせた根を、地上(=社会)に広げていくという意味合いがこの会社名には込められています。

深く複雑に根を張るライゾマティクスに対して、フロウプラトウは横断的なデザイン力・実装力をベースに地上で水平軸に広げていく。

ちなみに、齋藤(・精一、株式会社アブストラクトエンジン代表取締役)が主催するもうひとつの新設チームであるパノラマティクス(旧ライゾマティクス・アーキテクチャー)は、鳥瞰の視点から社会の状況を見渡し、さまざまな組織や人、行政や業界をつないでいくことで、世の中を良い方向に動かしていくためのアクションや仕組みをつくることが、おもな役割になります。

――フロウプラトウには、どのような職能を持つメンバーが集まっているのですか?

清水:僕や木村のように、プロデューサーやディレクター、デザイナーとして動いているメンバーのほかに、エンジニア、バックオフィスのスタッフによって構成されています。領域はオンスクリーンから空間まで幅広く、商品のプロモーションからブランドサイトのデザイン、映像制作、自社プロダクト開発、常設施設の空間設計からコンテンツ企画制作、空間インスタレーションまでさまざまなプロジェクトを手がけています。

フロウプラトウでは、ライゾマティクスデザイン時代から培ってきた総合的なクリエイティブの力を活かし、クライアント企業をはじめとするコラボレーターたちとともにつくったものを、より効果的に社会に広げていくことが大きなテーマとなっています。

清水啓太郎
ディレクター/デザイナー。多摩美術大学を卒業後、パナソニックで車載機器などの商品デザイン、UXデザイン、先行開発業務に従事。2013年より現職。現在は企業のR&D、ブランディングやプロダクト開発、web、イベント、空間など、さまざまな領域で役割を変えながら、チームメンバーとクライアントと共に本質を突いたクリエイティブワークをつくることを目指し活動している。

組織を再構築したことで際立った「実装力」

――仕事の内容自体はこれまでと大きく変わらないということですが、仕事に対する心構えなど意識面での変化はありましたか?

木村浩康(以下、木村):いま清水が話したように、関わってきたプロジェクトが多岐にわたっていることもあり、例えば建築関係の方とエンターテインメントが好きな方では、僕らに対して抱いているイメージがまったく違うんですよね。良くも悪くもこれまでのライゾマティクスというのは、ある種ブラックボックスのように何が出てくるのかわからないところがあったと思います。

今回、組織を解体・再構築したことによって、多様なプロジェクトでデザインと実装を担ってきた自分たちの特徴がより際立つようになったと感じています。その分、クオリティに対するプライドや責任感がこれまで以上に強くなりましたね。

清水:これまで自分たちはライゾマティクスの名のもとで仕事をしてきたわけですが、今回の組織変更によって看板が外れたとも言えます。だからこそ、自分たちの強みを明確に示し、新しいブランドで仕事をつくっていかなければならないという意識が強くなっています。そのためにも多様なアウトプットをまとめる最大公約数的な言葉が必要だと感じているのですが、これがなかなか難しくて悩み続けています。

ただ、結局自分たちの最大の強みは、一つひとつの「アウトプットそのもの」だという思いもありますし、「定義しきれない領域の多様性」自体も強みとして、メンバーもそこに自信を持ち、価値を感じているところがあります。だから最近は、ひとつの言葉やヴィジョンで無理にまとめようとはせず、バラバラで幅広く、強い個の集合体としての「コレクティブ」でも良いんじゃないかと開き直りつつある自分もいます(笑)。

木村:以前からライゾマティクスには、既存のメディアやデザインの領域を超え、現在の社会状況における新しいソリューションを求められるようなことが多かったのですが、こうしたプロジェクトが世に出る時は「ライゾマティクスがまた何か面白いことを始めるらしい」という見られ方がほとんどでした。でも、組織体制が変わったことで、こうしたプロジェクトを支えてきた新しいテクノロジーによる実装力や、そのスピード感というものを、もう少し丁寧に発信していけるのではないかという期待もあります。

木村浩康
アートディレクター/UIデザイナー。東京造形大学卒業後、Webプロダクションを経てライゾマティクスに入社。最新のテクノロジーの知見を取り入れ、さまざまなデータを活用したテックドリブンなデザイン制作を行っている。

清水:一方で、デザインやデジタルテクノロジーは目的を実現するための手段に過ぎないとも思っています。依頼されたものをそのまま形にするだけでは面白くないですし、その前段階にある「何のためにつくるのか?」というところまで遡って考えることを大切にしています。

例えば、広告にはすでにあるプロダクトやサービスを社会に伝えていく役割があるわけですが、自分たちとしてはもっと川上の商品開発などから関わることで、一貫性のあるアウトプットができますし、そこに自分たちの強みがあると思っています。自分たちの力を最大限に活かしながら、クライアントやチームのメンバー全員が良いと思えるものをつくっていきたいですし、そのためにも熱量がある人たちと仕事をしていきたいという思いがあります。

個の振る舞いで輪郭が変わる組織

――フロウプラトウのメンバーに共通する特徴や、根底にあるカルチャーのようなものがあれば教えてください。

木村:デザイナー、建築家、広告代理店出身者など、メンバーのバックグラウンドはさまざまですが、型にはまっていない人たちが多いと思います。清水にしても以前は家電メーカーのプロダクトデザイナーで、いまもプロダクトの仕事はしているものの、他にも映像制作や新聞紙面のデザインなんかをしていて、さらにクリエイティブディレクターとして現場を仕切るようなこともあります。

うちには、清水のように案件ごとで自分の立ち位置を変えていくような人間が多く、各プロジェクトに最適化されたアイデアやアウトプットが出やすいということもクリエイティブチームとしてひとつの強みになっていると思います。

さまざまな領域でリアルとオンラインを横断しながら活動の幅を拡張し続けてきた、フロウプラトウの根底には面白いからやってみるという「ストリート感覚」がある。

清水:フロウプラトウには、好奇心先行型の人間が多いように感じます。これからの自分たちの活動を言語化するにあたり、さまざまなデザイン会社のヴィジョンなどをチェックしてみたのですが、世の中に貢献する、社会を前進させる、といった主旨のものが多いんですよね。フロウプラトウも「社会実装」を掲げていますし、そういう部分が大切であることは間違いありません。ただ、きれいに整えられたヴィジョンだけではすくい取れないような、単に面白いからやるという「ストリート感覚」的なものがフロウプラトウにはあって、それが自分たちにとっては大切なものではないかと感じています。

木村:フロウプラトウはさまざまな「個」が集まった組織で、各々の個性や能力に頼っているところが大いにあるんですよね。日々仕事をしていると、「いま自分が判断しなければ他に誰がするんだ」という場面が多々ありますし、その時の判断次第で表現が大きく変わっていくんです。この人間がいなかったら、こういうアウトプットにはたどりつかなかったという案件ばかりですし、だからこそ仕事の引き継ぎというのがとても難しかったりします(笑)。

――個人の振る舞いによって組織のあり方が変わっていくところが多分にありそうですが、おふたりそれぞれが今後やっていきたいことについても教えてください。

木村:僕個人としては、オンスクリーンデザインとグラフィックデザインを接続していきたいという思いがあります。両者はそれぞれ良い部分があるにもかかわらず、コンテクストや美意識が大きく異なり、いつまでも平行線をたどっているように感じています。その背景には領域の横断がしにくい縦割りの業界構造があると感じていますが、両者を上手く接続するデザインをしていくことで新しい地平を切り開きたいと思っています。

清水:フロウプラトウのヴィジョンの話にも重なるのですが、「定義できない(undefined)」ということが自分にとっては大切なんです。プロジェクトごとに立ち回り方が変わるのが常なので、自分の肩書きというのがとても難しいところがあって(笑)。自分のバックグラウンドであるプロダクトデザインの考え方がさまざまな局面で役立っていることは確かなのですが、プロダクトデザインの専門性をベースに、領域を超えてさまざまな提案ができるということを自分の強みにしたいと考えていますし、今回の組織変更を機に、それをはっきり言えるようなレベルにまで引き上げたいという思いがありますね。

木村:以前に真鍋(・大度、ライゾマティクス主宰)が、「競ったら負け」という話をしていましたが、それに近いような話かもしれません。「競う」ということは、定義づけされたひとつの領域の中で勝負するということでもありますからね。

「新しい地平を切り開く」「定義できない」…異なるボキャブラリーで、それぞれのビジョンが語られたが、本質的には非常に近い考え方がコアにある。

自らを成長させる「場」としての会社

――単刀直入に聞きます。おふたりにとっての仕事の醍醐味とはなんでしょうか。

木村:これまで僕は、デザインを自分の「生業(なりわい)」だととらえて仕事を続けてきました。仕事をしていると、「会社員としてデザインをしている人」と、「デザインを生業と考えている人」の間に温度差を感じることがよくあります。フロウプラトウのメンバーの多くは後者だと思いますし、一緒に仕事をする人たちにはそうあってほしいという思いが個人的にはあります。

そういう心構えで仕事に臨んでいれば、うちを辞めたとしても生業としてのデザインを続けられるわけですし、自分の生業に必要な経験や技術を獲得するために会社を利用することだってあっていい。そうした姿勢で仕事をしていれば、例えどんな失敗をしたとしても、必ずその後の生業に活かされるはずだと思っています。

清水:自分だけではたどり着けないアウトプットやゴールを目指していく中で、他者との関係が築かれていくことが自分はとても楽しいんです。デザインする側には、良いものをつくってくれるだろうと一方的にアウトプットを期待されることが多いですが、僕はあまりそういう関係性が好きではなく、お互いにアウトプットして学び合いながらゴールを目指していきたい。そういう意味で自分は、働くことを学びの機会ととらえているところがありますし、さまざまなプロジェクトを通じて無知を自覚するということが、仕事を続けるモチベーションになっているのだと思います。

――自らを成長させる「場」として会社をとらえた時に、フロウプラトウにはどんな環境があると感じますか?

清水:普通であれば新入社員がすぐには任されないような仕事に取り組めるチャンスがある会社だと思います。もちろん、いきなりすべての責任を負わせるわけではないですが(笑)、チャンスをものにできるかどうかは自分次第ですし、やり方次第では会社を自分の色に染めていける余地があります。学ぶことができる先輩も多い環境なので、自分の興味や好奇心をしっかり表明してもらえれば、どんなことにでも関われるチャンスがあるはずです。

すでにものづくりに携わる仕事をしながら、自らの意思を持って純粋にクリエーションと向き合うということにあきらめを抱いてしまっているような人にも可能性が開かれている場だと思います。

木村:フロウプラトウには前例のない仕事がたくさんあります。例えば、2万人ほどが集まるイベントで、会場全員のアクションをひとつのモニターで共有するようなエンターテインメントの仕組みをつくろうというプロジェクトがあったとして、「理論上は大丈夫」と言いつつも、実際に2万人が集まる本番までテストができないということなんかもよくあるわけです(笑)。

チャンスにはプレッシャーや恐怖がつきもの、その状況下でなお、仕事に尊さを感じられるか──過去の仕事の苦労話をしていたはずが、いつの間にか笑顔がこぼれる。

そういう仕事にはもちろん怖さがたくさんありますし、逃げ出したくなるほど大きな責任も伴うのですが、それでも、その場で2万人が繋がり共感し合えるコンテンツづくりに尊さを感じ、取り組んでみたいと思えるかということが大きなポイントだと思います。もしその覚悟さえ持てれば、仮にまだスキルがなかったとしても仕事を続けていくうちに実力は伴ってくるはずですし、そういう意味では成長するための条件は与えられている会社なのではないでしょうか。

  • TEXT BY 原田優輝
  • PHOTOS BY 西田香織
  • EDIT BY 瀬尾陽(Eight Career Design)
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