「自由」を活かせる社員が、より力を発揮できるように──ヴイエムウェアが新オフィスに込めた想い

ヴイエムウェア株式会社は、サーバーの仮想化やクラウドテクノロジーで企業のDXを強力に推進するアメリカ発のグローバル企業だ。2007年に開設した東京オフィスは年々規模を拡大し、2021年春に新オフィスへ移転した。

移転の目的は、手狭になったスペースの拡張にとどまらない。より働きやすい環境を提供する、ニューノーマルな働き方を可能にする──そんな要請に応えるべく、多くの検討プロセスを経て実現したものだ。

2年にわたる移転プロジェクトを主導したのは、シニアマネージャーの小野めぐみ。まだ社員数30名ほどだった2007年に中途入社し、当初はファイナンスを含む管理業務全般を担った。その後、組織が拡大して業務分担が進むタイミングでワークスペースづくりの仕事に特化し、今に至る。

会社の成長を肌で感じてきた小野にとって、このオフィス移転にはどのような意味があったのか、プロジェクトを通して見えてきたヴイエムウェアらしさとは何か、オープン直前のタイミングに新オフィスでインタビューを行った。


組織の拡大による度重なる増床がコミュニケーションを難しくしていた

――まずは、小野さんの通常の業務における役割を説明いただけますか。

私たちワークプレイスチームのミッションは簡単に言うと、社員の皆さんに気持ちよく、効率よく働いてもらう場所を提供し、運営する、ということです。

小野めぐみ
グローバルワークプレイス シニアマネージャ 日本/韓国担当。国内IT企業から2007年にオフィスマネージャとして入社。社員数30数名で東京オフィスを立ち上げて以来、1000名のオフィスになるまでワークプレイス担当として会社の成長に貢献。

――オフィス移転のプロジェクトがスタートしたのには、どのような背景があったのでしょうか。

私が入社した2007年に1フロアの自社オフィスをオープンしました。それから2年ごとに1フロアずつ増床し、最終的には7フロアになったんです。そうすると、フロアごとのデザインが違ったりしますし、何よりも、フロアが分かれることによって社員同士のコミュニケーションがうまくいかない、部署を超えてのコミュニケーションが起きにくいといった課題が出てきました。 “Break down silos” 、つまり組織内にできてしまった壁をなくしていこうということが、移転に向けて動き始めた一番大きなきっかけでした。

――以前のオフィスでの取り組みから、新オフィスに引き継ぎたい良い部分はありましたか?

前のオフィスでは、2015年に大規模な改修を行いました。各フロアの真ん中にコラボレーションエリアと呼ぶスペースを作ってパントリーを置き、その他のエリアをワークスペースとしました。

その結果、社員が出社するとまずはコラボレーションエリアに集ってからワークスペースに行くようになったり、休憩の時も皆がそこに集まってきて、部署を超えた会話が生まれるようになりました。それが社員からもとても評判が良かったんです。オフィスというのは単に仕事をする机を提供するだけのものではない、コラボレーションやコミュニケーションのきっかけを提供することが重要だよね、という共通認識が生まれるきっかけになりました。

トランスペアレントでボーダーレスな文化を維持していけるオフィスに

―― オフィスのデザインは、どのように決めていったのですか。

プロジェクトチームを立ち上げたのは2年ほど前です。まず初めにやったことは、部署ごとの社員の代表が集まるエンプロイー・コミッティ(以下、EC)と、シニアリーダーをメンバーとするジャパン・エグゼクティブ・コミッティ(以下、JEC)という2つのコミッティを作りました。

ECでは、どういうオフィスを作りたいかという前に、どういう風に働きたいか、どういう文化を作りたいか、毎週1時間半から2時間ほどかけて話し合いました。そこから、オフィスに求められるものについて半年くらいかけて検討していったのです。

一方、JECでは、どういう人に入社してほしいのか、どういう会社と思われたいのか、といったところから、会社としての方向性を明確にしていきました。「オフィスに何がほしいか」から始めてしまうと、「あれがほしい」「これがほしい」という話になってしまうので、その点には気をつけました。

東京都港区芝浦に移転したヴイエムウェアの新オフィス。18階のエントランスは東京湾に向かって開けている。

――会社のビジョンやミッション、アイデンティティなどに向き合って、自分たちの働き方を再定義していったのですね。小野さんは、オフィスという場にはどんな意味があると考えていますか?

まずは、日本法人のアイデンティティを築く場であるということです。これまで築いてきた文化を継承するという意味でも、新しい文化を社員一人ひとりが作っていくためにも、場が必要だと考えています。加えて、とにかく自由な会社なので何かを待っていても何も生まれない、それぞれがアイデアを出し合って、自発的に動いていくことで成果や文化が生まれる。そのための場がオフィスなのかな、と思っています。

――エグゼクティブや社員の方々と検討していく中で感じられた、ヴイエムウェアならではのカルチャーはどんなことですか?

ECからもJECからも出てきたのが、「トランスペアレント(透明性)」「ボーダーレス」という特徴です。隠しごとがなく、役職者も気さくに話しかけてくれるし、話しかけやすい。部署や役職を超えて皆同じレイヤーでコミュニケーションができるんです。そういうところがヴイエムウェアの良いところなので、それを維持していけるようなオフィスを作らなければと思いました。

各国の文化や特色が反映されるオフィスデザイン

――社員の方からは、ほかにどんな意見が出たのですか。

最初にたくさんの写真や絵を並べて、どんなイメージで会社に行きたいかということを考えてもらったんです。そうすると、海辺の写真やリゾートの写真を選ぶ人が多くいて。行くことが楽しみになるような会社にしたいとか、仕事とプライベートの境目がなるべくないようなリラックスできる感じが良いとか、そういう意見が出ていました。

あとは“アジャイルオフィス”もキーワードでしたね。フリーアドレスを前提とし、状況に応じた働き方に柔軟に対応できるオフィスのことです。ディスカッションを進める中で、各チームの働き方やニーズが異なることを再認識しました。あらゆる業務内容に対応できるよう、多彩なエリアが必要とされていることが早い段階でわかりました。

作業に集中したい時、メンバーとカジュアルにミーティングをしたい時、頭を切り替えたい時……さまざまなシチュエーションを想定したスペースが用意されている。眺望の良いエリアには掘りこたつも。

――山中社長から、オフィスについてなにか指示や要望はありましたか?

ひとつだけ、オフィスの真ん中に階段を作って欲しいと。とにかく社員同士の風通しを少しでもよくして、コミュニケーションが生まれるように、それだけを言われました。その他についてはECの判断を尊重すると言ってもらえたので、とてもありがたかったです。

ヴイエムウェア社長・山中直の唯一の要望だった、オフィスの真ん中に設置された階段。フロア間の風通しをよくし、物理的な隔たりによるコミュニケーションロスを解消する狙い。

――コンセプトを実際のデザインに落とし込むプロセスは、どのように進めたのですか?

ECとJECの意見、社員へのアンケートの結果に加えて、会議室や座席の利用率調査に基づく必要な設備や面積などの情報からデザインブリーフを作って、大まかなデザインの方向性を定めました。

これらの情報をまとめる過程で見えてきたことをキーワードに落とし込み、それに加えて「日本の良さ」をどう表現するかといったことも、デザイナーとは時間をかけて検討していきました。2年前の春から半年かけてコンセプトを作り、それをレイアウトに落とし込むまでに10ヶ月くらいかかりました。

――各国のオフィスも参考にされたんですか。

はい。アメリカの本社のほか、ブルガリアのソフィアにも大きなオフィスがあるので行きましたし、シンガポール、中国、韓国のオフィスも参考にしました。

――それらに共通するヴイエムウェアらしさとか、標準化されたルールみたいなものは?

それがルールは全然ないんです。オフィスのデザインは各国に任されていて、本当に自由です。ブランディングに関することには厳しいルールがありますし、部屋の大きさや家具などに関するガイドラインはあります。でもデザインはローカルで独自にやっていいよ、というスタンスなんです。ですから各国のオフィスにはそれぞれの文化が反映され、特色のあるものになっています。

オフィスは社員が働き方を選べる場所のひとつ

――今回のプロジェクトで、一番苦労された点はなんですか。

レイアウトや詳細設計がほぼ出来上がって、そろそろ工事の発注をしようか、という時に、新型コロナウイルスが流行し始めました。あの時が一番大変でしたね……。

その後、本社からは早い段階で “Future of work” という新しいワークプレイスに関するコンセプトが出ました。それを受けて「このまま移転するのか、止めるのか」という話にまでなったんです。最終的には3.5フロアの予定だったものを3フロアに縮小し、一部残していた固定席を撤廃し、デザインもやり直しました。この頃は色々な意味で、眠れなかったですね(笑)。ただ、工事着工前に方向転換できたのはラッキーだったと今なら思えます。

――通常の移転でもあちこちの調整が大変なところ、誰も経験のない事態に直面して大きな判断を迫られたんですね。

一番つらかったのは、社員から「移転する必要ないよね?」「リモートで仕事するようになったのに、どうしてオフィスを作るの?」と言われたことです。でもそれをきっかけに、オフィスの意味をどう考えて、来る価値のあるオフィスをどう作っていこうとしているのか、ニュースレターやECのメンバーを通して社員に伝えていくことに力を入れました。それによって、こんな時だからこそ新オフィスが必要である理由を説明し、移転を楽しみにしてもらおうと考えたんです。

オフィス移転の意味そのものを問われた時の苦悩はあった。「来る価値のあるオフィス」をどう作っていこうとしているか、丁寧に発信していくことで新オフィスへの期待値を高めていった。

――“Future of work” とは、はどのような内容でしょうか。

ひとつは、在宅でもオフィスでも、どこでも働けるようにしようということです。オフィスは社員が選べる場所のひとつで、会社に全く来ないという選択もありだと。そのために採用から見直そう、ということが打ち出されました。

また、フレキシブルな働き方をしたい社員をどのようにサポートしているかを継続的に考えていく、そのようなあり方そのものを“Future of work” と呼んでいるのだと私は理解しています。

――実際、ヴイエムウェアではリモートワークがかなり浸透していますね。オフィスをどのように使ってほしいですか。

普段はリモートワークでも、会った方が話が早いとか、これはやっぱり直接話したいなとか、必要だと思うタイミングで出社してもらえればと思います。

ただ、いつもZoomでミーティングをしていると、同じプロジェクトに関わっている人とは話すけれど、そうでない人とは接点がないということにもなりがちです。会社に来れば、パントリーで偶然会ったり、イベントで知り合ったりということもありますよね。エグゼクティブメンバーや社員からも、そういうきっかけが必要だという意見は出ていて、積極的に企画していこうという話になっています。

――出来上がったオフィスについて、社員の皆さんの反応はいかがでしたか。

「このオフィスだったら来たい」という言葉が聞けて、嬉しかったですね。皆さん自宅で仕事ができますから、本当に来たいと思えるオフィスでないと使ってもらえません。家で集中するのもいいけれど、ここなら景色もいいし、カラフルで気分も変わる、集中作業やコラボレーションなど、やりたいことに応じて場所を変えられるなど、来たいと思える理由があると言ってもらえたのが、本当に良かったです。

日本法人のアイデンティティを築く場である、東京の新オフィスは“Future of work” のさきがけとなっていく。(写真提供:ヴイエムウェア株式会社)

「自由」を楽しみ、活用できる人が集う会社

――今回のプロジェクトを通じて、小野さんが感じたヴイエムウェアの良さはなんですか?

シニアリーダーや社員の皆さんと話し合ってみて、もうすぐ1000人になる会社にも関わらず、同じ方向を見て仕事ができているところがヴイエムウェアの魅力だと感じました。それはやはり、トランスペアレントであるというところが大きいのだと思います。

もうひとつ、本当に色んな人がいるという点も魅力です。ECには1000人の社員を代表する40人のメンバーがいて、色々な意見が出てくる中での取りまとめは本当に大変でした。でも、それがあったからこそ一人では気づかなかった視点や解決方法も見えてきました。多様性というものを再確認できた機会でした。

それと、自由であること。だからこそ意見もたくさん出るし、会社に来るのも来ないのも自由で、オフィスの必要性というのも改めて考えなければいけないわけです。

「好きに決めて」と言われるのは、自分で決められない人にとってはすごく苦しいことだと思うんです。ヴイエムウェアは、自由を楽しみ、活用できる人が揃っている会社なんだな、と感じました。オフィスも、社員が自由を活かして力を発揮するために、有効に使ってもらいたいと思います。

――では、小野さんにとって、ヴイエムウェアで働く醍醐味とは?

私が所属しているAPACのワークプレイスチームの同僚はAPAC内各国にいます。彼らは私の上司も含め、全員人種が違って、ミーティングはまさにダイバーシティ&インクルージョンです。他国でやっていることをお互いに学べたり、異なる文化に触れられたり、一緒に仕事ができたりするというのは、私にとってとても楽しく、やりがいを感じるところです。

また、コロナがあってリモートワークが常態になり、一時期は私も「もう会社に戻れないかも……」なんて思うこともありました。でも、オフィス移転を控えて、最近では出社することが多くなったのですが、会社に来てみると、とても楽しいんです。チームメンバーや社員と一緒に働いて、喜びやいろいろな感情を共有できるというのはやっぱりいいなと。それが私にとって、仕事をする上での大きな喜びなんだな、ということがよく分かりました。

――最後に、これからどんな仕事をしていきたいか、お聞かせください。

3つあります。まず短期のキャリア目標は、グローバルのワークプレイスチームに貢献するということです。東京の新オフィスは“Future of work” のさきがけとして注目されているので、色々試して海外オフィスのモデルケースになりたいですね。

2つ目は、中期的な目標として、マネジャーとしてできることを増やしていきたいです。ここ2年ほどはプロジェクトが本当に忙しく、チームメンバーにかなり支えてもらいました。逆に、私はマネジャーとしてチームに何かを返せているのだろうかということが気になっていて。チームメンバー一人ひとりのキャリアを考えるとか、得意なことを伸ばすとか、マネジャーとしてやるべきことを考え、さらに強いチームを作るスキルを身に着けていきたいです。

時代によってオフィスの価値は大きく変わる、だからこそワークプレイスを極めたい。

3つ目は、ワークプレイスを極めることです。オフィスって、時代によっても大きく変わっているんですよね。コロナによっても、オフィスのあり方は大きく影響を受けていると思います。ワークプレイス担当がやるべきことは、ただオフィスを作るとか広げるということではなく、本当に奥が深いんです。例えば、家具の選定や配置一つ違っただけでも、社員の健康や仕事の効率が違ってきます。そういったワークプレイスに付随する新しく、多角的な知識を学び続け、掘り下げることで、社員の皆さんに働き方のコンサルティング含めた提案をし続けたいと考えていて、それが長期的な夢でもあります。

  • TEXT BY やつづかえり
  • PHOTOS BY 吉田和生
  • EDIT BY 瀬尾陽(Eight Career Design)
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