出社は「義務」ではなく「権利」。仕組み化を徹底してきたカオナビが考える、これからの働き方と「場」の価値

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「日本企業の働き方を変えたいーー」。約1,800社に活用されているクラウド人材マネジメントシステムを提供する「カオナビ」は、そのサービス同様に社内における業務の仕組み化・効率化に徹底的にこだわり、日本の新しい働き方を先導してきた企業でもある。そんなカオナビはコロナ禍において完全リモートワークに移行し、現在はリモートワークとオフィス出社を自らが選択できる「ハイブリッド勤務」を導入している。

社員一人ひとりの裁量を最大化させ、組織と個人が対等な関係を構築し、互いに選び選ばれる「相互選択関係」を築いてきた同社は、ポストコロナ時代における職場環境や働き方をどのようにとらえているのか。創業者である柳橋仁機代表取締役社⻑CEOと、この7月にCDO(Chief Design Officer/最高デザイン責任者)に就任したばかりの玉木穣太へのインタビューを通して、仕組み化を徹底してきたカオナビの「新しい働き方」に迫る。

なぜ「仕組み化」にこだわるのか?

――まずは、カオナビを創業した経緯から教えてください。

柳橋仁機(以下、柳橋):私は1975年生まれなのですが、ちょうど自分たちは昭和的な旧来型の価値観と、新しい価値観の間を生きてきた実感があり、会社などでも上から「扱いにくい」とされてきた世代でした(笑)。私が新卒で入った会社でも、先輩たちは24時間体制でバリバリ働くことを良しとする価値観を持っていて、右も左もわからない1年目の時には、自分もそれについて行ったのですが、徐々に「これは少し違うのでは……?」と感じるようになりました。

この疑問が自分の中で大きくなり、日本人の働き方に対する「仕組み」をつくること、そして論理的かつスマートに働くこと、それこそが自分が進むべき道だと思い至りました。2008年、企業の働き方を支援する人材マネジメントのサービスとして、カオナビを立ち上げます。

柳橋仁機
株式会社カオナビ代表取締役社長 CEO。2000年、東京理科大学大学院修了。アクセンチュアに入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。その後、アイスタイルで人事部門責任者として人事関連業務に従事した後、2008年にカオナビ設立。2012年よりクラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」の事業を本格的に開始し、現在は業界シェアトップクラスのサービスに成長させている。

――「仕組み化」は、カオナビのカルチャーとして浸透しているそうですね。

柳橋:創業当初から、ベンチャーにありがちな若い労働力を無理に使うような仕事のやり方ではなく、スマートに働き、成長していく会社でありたいという思いがありました。その中でまずは時間管理からスタートしようと考え、「ぎゅっと働いて、ぱっと帰る。」を行動指針に掲げ、働き方の「仕組み化」を徹底することで、短時間で効率的に成果を出すことを目指してきました。ここでいう「仕組み」というのは、仰々しい業務システムを構築するということではなく、もっと個々人のレベルで活用できるフォーマットやルールなどの標準化です。

カオナビのVALUE(上)と行動指針(下)。目指すのは日本の企業とはまったく異なる、生産性の高い北欧型企業

例えば、ひとつの書類に関しても、それぞれがフリーハンドで作成するのではなく、ルールを決めることで誰がつくってもクオリティを担保できるようにしています。つまり、業務における属人性を排除し、誰もが利用できるものにしていくというのが、我々が実践している「仕組み化」です。

――「仕組み化」という考え方は、スムーズに社員に浸透していったのですか?

柳橋:私は新しく入ってきた社員と入社一ヶ月後に面談をするのですが、皆が口を揃えて社員の「仕組み化」への意識や工夫について話すので、浸透しているのだと思います。「仕組み化」は社員それぞれに利益をもたらすものだからこそ、自発的に取り組んでくれているのではないでしょうか。

玉木穣太(以下、玉木):カオナビには、アイデアを出すことよりも、アイデアに再現性を持たせることが評価されるカルチャーがあり、これも「仕組み化」が浸透していることの表れですよね。カオナビのようにサービスを運営し続けていく会社において、「サステナブル」はひとつのキーワードで、それを支えているのがこの「仕組み化」なのだと思います。

また、業務の「仕組み化」を通して属人性を排除していく一方、社員一人ひとりの個性が立っているのもカオナビのユニークな点で、組織の「仕組み化」と、個性やスキルをともに大切にしている印象があります。

玉木穣太
BBH Tokyo, W+K Tokyo, AKQA Tokyo, Saatchi & Saatchi Fallon Tokyoを経て、2015年株式会社Cogent Labsへ参画。クリエイティブリードとしてバリューアップを支援。2017年DPDC design 設立。MitasMedicalのデザインアクセラレータとして参画、DraperNexusVentures 改めDNX Venturesの新名称、CI開発、OLTA株式会社のリブランディング、JapanDigitalDesignにてクリエイティブアドバイザーを務め、2019年3月より「非認知能力を認知する」「人に新しい評価軸を創る」をミッションにした株式会社XCOGを設立、2019年9月筑波大学との共同研究を終了。現在に至るまでコミュニケーションデザイン事業を中心に展開している。

個々の裁量を最大化する組織づくり

――カオナビでは、「フレックス±20時間制度」や「兼業推奨」など、さまざまな人事制度を導入されていますね。

柳橋:私は規制というものが嫌いなので、本当はなるべく制度はつくりたくないんです(笑)。いまの制度も「規制」ではなく、あくまで社員の裁量を高めるためのものです。「フレックス±20時間制度」などにしても、自己の裁量と責任で生産性を向上させ、各自で労働時間をコントロールできるようにすることが目的です。

――ご自身の会社を運営されていて、カオナビのCDOを務めている玉木さんも、まさに兼業スタイルですよね。

玉木:僕はずっとデザインの仕事をしてきたのですが、柳橋と知り合う以前から、カオナビのビジョンは自分が目指す方向と近しいものを感じていて、「カオナビ NEXT FUND」というスタートアップ企業の支援プロジェクトにエントリーをしたことがあったんです。その時のプレゼンを評価してもらったことがきっかけで、CDOとしてカオナビのコミュニケーションデザインをサポートすることになりました。

柳橋:これまでカオナビは、デザインやテクノロジーを前面に打ち出すことはしてきておらず、どちらかというと営業やマーケティングの力で事業を成長させてきたところがありました。とはいえ、デザインやテクノロジーの力は理解していましたし、我々に欠けていたところを補ってくれる外部の人たちが、対等なパートナーシップで関われる組織にしていこうと考えていました。

そんな折に玉木、そして森正弥さん(東北大学 特任教授)との出会いがあり、それぞれにCDO、技術顧問として関わってもらうことになりました。

玉木:以前、「非連続的な価値を生んでほしい」と柳橋から言われました。これも「サステナブル」というキーワードにつながる話かもしれませんが、連続性のある人やもの、情報だけで閉じている組織は、いつか錆びてしまうんですよね。だからこそ、外部の視点から異分子として非連続性をつくる役割を担ってほしいと。

外部の人間が深く関わることに抵抗を示す企業も少なくないと思いますが、カオナビはお互いにメリットがある形で手を結ぶ方法を模索してくれて、正直珍しい会社だなと感じました。

――玉木さんは、これからどんな仕事に取り組まれていくのですか?

玉木:サービスのユーザーというのは、大きくふたつに分けられると思います。ひとつは、サービスを利用できればよしと考える消費者で、仮により良いサービスを他社がリリースしたらそちらに移ってしまいます。もうひとつは、その会社やブランドに共感し、支持してくれるようなファン。いまカオナビに足りていないのは後者です。カオナビに共感してもらい、ファンを増やしていくためのコミュニケーション設計に、幅広いアプローチから取り組んでいきたいと考えています。

柳橋から玉木に求められたのは「非連続的な価値を生むこと」。外部の視点から異分子として非連続性をつくる役割をCDOとして担っていく。

完全リモートワーク実施から見えてきたこと

――コロナ禍によって、カオナビも一時は完全リモートワークとなり、現在(2020年8月)も全社員リモートワークが中心だそうですが、新しい体制への移行はスムーズに進みましたか?

柳橋:いざ始めようとすると、自宅にインターネット環境がないという従業員も出てきましたし、特に最初の1〜2ヶ月は困っている社員の声をしっかり拾うように各本部長や人事部に指示しながら、だいぶ試行錯誤しました。中でもポイントになったのは新しく入ってくる社員のケアで、Zoomなどを通して積極的にコミュニケーションを図りました。これまでは新しく会社に入った人も半ば強制的にオフィスで社内の人間と顔を合わせていましたが、それがなくなってしまったからこそ、いわゆるオンボーディングの重要性がより大きくなったと感じています。

――リモートワークに取り組んだことで何か気づきはありましたか?

柳橋:私自身が徹底的な合理主義者なので、働く場所というのは仕事をするために必要なツールと、みんなが集まれるスペースがあれば良いくらいにしか考えていなかったのですが、コロナ禍で考え方が180度変わりました。これまではみんなで集まって仕事をした方が効率的だと思っていたので、リモートワークは推奨していなかったのですが、いざやってみると問題なく業務をこなせることがわかり、逆に集まることの必然性を感じなくなってしまったんです(笑)。

特に我々のような業種は、ネット環境さえあれば業務が成り立つことが証明されたわけです。物理的なスペースに縛られる必要性がないので、自宅でも会社でも働く場所を自分で選択できる「ハイブリッド勤務」を導入することにしました。

玉木:これまではオフィスという「場」を通じて、会社が従業員の働き方を管理してきたわけですが、それを強制的にやめざるを得なくなったことで、本当に必要なものと不要なものが明確になったと思います。コロナ禍において、それまで無駄だったものを排除し、その分のリソースをプロダクトの品質向上などに充てようと考えた経営者は多いはずです。

柳橋:経営者として管理することをやめ、成果だけを見れば良いと割り切れたんです。IT業界以外の経営者と話をしていると、「リモートワークだと社員がサボるかもしれない」とか、「どこまで従業員を信じるのか」ということが話題に上がりやすいのですが、論点はそこではありません。

カオナビでは、家事や育児などで仕事を中断できる「スイッチワーク」を導入したのですが、これも成果さえ出してくれれば、「スキマ時間」を裁量として認めようという考え方です。

――カオナビでは、「成果」というものをどのように捉えているのですか?

柳橋:例えば、営業などは数字が出るから成果がわかりやすいと思われがちですが、私は数字が成果だとは思っていません。仕事というのは基本的に相手がいるものなので、成果というのは仕事の対象から得られる評価だと定義しています。それが営業であれば受注数になるわけですが、アシスタントの場合はアシストした人の満足度などが成果になる。そうした数字には現れにくい成果というものを評価制度に反映していくことが大切だと考えています。

これからのオフィスに求められる価値とは?

――「ハイブリッド勤務」を推進していく中で、これからのカオナビにとってオフィスはどんな存在になっていくのでしょうか?

柳橋:常に皆が同じ場所にいる必要がなくなり、オフィスが「顔を出しに行く場」という位置づけになった時に生まれる新しい価値があると考えています。「これからの理想的なオフィスはどうあるべきか?」ということを、玉木ともこの数ヶ月で何度も議論をしていて、それに基づいた新しいオフィスが年内に完成する予定です。

これからの理想的なオフィスはどうあるべきか?「ハイブリット勤務」によって、出社を選択できるようになったからこそ、オフィスは非日常かつ希少性のある空間になるかもしれない。

玉木:オフィスのデザインにあたって意識したことは、もともとカオナビが持っている思想やビジョンを体現するということでした。これまで話してきたように、会社と従業員の関係性をフラットにするという考え方がカオナビの根底にあります。

そのため、オフィスに関しても会社の都合で設計するのではなく、ユーザーである従業員にとって使いやすいものであることが大切ですし、同時に会社のビジョンを対外的に発信するタッチポイントにもなるような場所にできればと考えています。

柳橋:「ハイブリッド勤務」になる前は、従業員には基本的に出社の「義務」があったわけですが、これからは出社が「権利」になり、選択ができるようになるからこそ、オフィスというのは自分から進んで行きたいと思ってもらえる場でなければ意味がありません。だからこそユーザー視点がより大事になるし、皆が心地良く働くことができ、自分の居場所だと感じてもらえるような場所にしたいと思っています。

――対面でコミュニケーションすることの価値についてはどう考えていますか?

柳橋:人間には本能的に人とつながりたい、直接話をしたいという欲求があり、オフィスというのはそのつながりを実感できる場になっていくはずです。これまでオフィスは日常の場でしたが、これからは人とつながることができる非日常の空間になっていくかもしれないですし、その希少性がこれからのオフィスの価値になると考えています。

玉木:相手の熱や匂い、雰囲気などを感じながら情報交換をする対面のコミュニケーションは、ビデオ会議などに比べて圧倒的に情報量が多いですよね。そうしたコミュニケーションを最高に弾ませるために、新しいオフィスでは、低めのソファや吊り下げの照明などでホテルのラウンジのような雰囲気を持たせたスペースを用意します。サロンのような場でカジュアルに雑談ができ、そこから思いもよらないものが生まれるような状況がつくれるといいなと。

「新オフィスは、ユーザーである従業員にとって使いやすく、コミュニケーションを最高に弾ませるための空間にしていきたい。同時に会社のビジョンを対外的に発信するタッチポイントにもなるような場所にできれば」と玉木は語る。

柳橋:リモートワークを始めてから、電車通勤がなくなったことで、時間にゆとりができ、疲労やストレスが減ったという社員の声が届いています。そして声には出しませんが、出勤がなくなったことで苦手な人と顔を合わせなくてよくなったことも一つの理由としてあるのではと感じています。

組織ですから、苦手な人がいるのは当然です。だからこそ、これからのオフィスは、会いたい人とポジティブに話せる、ポジティブにコミュニケーションできる場所であることが重要になると思います。

新しい働き方が促す組織の新陳代謝

――新しいオフィスや働き方を通して、カオナビにおける会社と従業員の関係性はさらに変化していくのでしょうか?

柳橋:これまではオフィスという場で社員を管理していたことによって、マウンティングやセクショナリズムが起きていた側面がありました。オフィスから社員を解放することによってそれぞれがより働きやすくなるはずですが、同時に会社のカルチャーとのフィット&ギャップがより明確になると感じています。みんなが自由な場所で働けるようになると、どうしても会社のカルチャーと合う人同士がつながり、逆に合わない人との距離が開いてしまうところがあるのですが、そこは自然の摂理に任せようと思っています。

さまざまな考え方がある中で、会社のカルチャーとフィットしない人が出てくるのは当然ですし、それを無理にオフィスという場でつなぎ留めることには合理性を感じません。カルチャーが合わないから離れるということは、会社にとっても個人にとってもネガティブなことではないし、そういう選択をした個人に対しては、会社として次のステップを応援していくべきです。「ハイブリッド勤務」を導入したことで、組織としての新陳代謝も進んでいく実感があります。

玉木:テレワークと出社のどちらかに振り切るのではなく、ハイブリッドであることが大切だと思っています。例えば、マンションなどの賃貸物件ではSOHOが禁止されていることもあるし、社員の中にも自宅に同居人がいたり、仕事をするために十分なスペースがないという人もいます。また、オフィスには会社の社会的信用を担保する側面もありますよね。

我々がリモートワークをどれだけ推奨しても、オフィスを取り巻く世の中の慣習やシステム、法律などがアップデートされていないところがあって、だからこそリモートとオフィスを自由に選べる状況をつくることが大切なんです。新しいオフィスでは先に話したコミュニケーションのためのスペースとは別に、個人が集中できる作業ブースも多く用意しています。

オフィスを取り巻く慣習やシステム、法律などがアップデートされていない現状では、テレワークと出社のどちらかに振り切るのではなく、「ハイブリッド」であることが大切だ。

――最後に、新しい働き方を支援するサービスを提供する企業として、これからの日本企業の働き方で求められることについてお聞かせください。

柳橋:私は、いまの日本企業の働き方が猛烈にダサいと思っています。日本人は昔から労働時間を美徳とするところがあって、忙しさ自慢をする人もいますよね。長い時間オフィスでがんばっている人間が偉いとされてきたところがあるし、コロナ禍においてもリモートワークよりも出社している人の方がちゃんと働いていると評価されるようなことがあるそうで、正直理解に苦しむところがあります。

玉木:例えば、「いいね」をもらうことを目的にSNSに投稿をするケースがありますよね。でも、それは本来SNSが目指している世界からは乖離した行為で、言わばフェイクだと思うんです。それと同じように、他人から評価されることを目的とした働き方を、僕はフェイクワークと呼んでいきたいと思っています。

柳橋:そういう働き方に対する価値観を徹底的に壊していきたいんです。それができるのはインターネット企業だからだろうと言う人もいるかもしれないですが、仮にそうだとしても、自分たちがいまできることからアクションを起こしていかないと、世の中は変わらないと思っています。

  • TEXT BY 原田優輝
  • PHOTOS BY 黒羽政士
  • EDIT BY 瀬尾陽(BNL)
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