システムを継続的に改善・成長させていく「Living Systems」。絶え間ないアップデートで、デジタルを業務の末端まで届けたい

デジタル変革(DX)の必要性が叫ばれる中、イノベーションを阻害する要因として既存のレガシーシステムの存在が挙げられることが多い。アクセンチュアでは、その状況を打破するべく全社規模のDXを支える新たなコンセプト「Living Systems(リビングシステム)」を提唱している。

Living Systemsに基づいて企業変革を実践することで、経営、業務、情報システムの密な連携が可能になり、業務効率化のサイクルを短期間で回せるようになる。このLiving Systemsを担う新たなアクセンチュアのテクノロジー専門組織が、TfLS(Technology for Living Systems)だ。

本組織の責任者であり、アクセンチュア・イノベーションセンター北海道 センター長も務める浅井憲一(北海道からリモートでの取材参加)、アソシエイト・ディレクターの郡司陽介へのインタビューを通じて、Living Systemsが提供する価値、TfLSで働くことの醍醐味について伺う。


Living Systemsは「変化し続けるシステム」

――アクセンチュアが提唱している「Living Systems」とは、どのようなコンセプトのものですか?

浅井憲一(以下、浅井):ハウスメーカーの用語だと誤解されることもありますが、アクセンチュアの造語で「変化し続ける仕組み」を意味します。これにより、システム稼働の出発点から、絶え間ない改善と機能のアップデートで常に進化させることが可能になります。新たなビジネスにも、即座に対応できるスピードとパフォーマンスを発揮することができるのです。

郡司陽介(以下、郡司):Living Systemsについて実際に現場で話している言葉でいうと「データに基づく継続的改善」なんですよね。現在のビジネス状況に合わせて継続的にシステムを改善・成長させていくことを各企業から求められています。

DXについては「全てのものをデジタル化すれば良い」と勘違いされることもありますが、DXはスタートでしかありません。一般的にシステムや業務効率化ツールは稼働し始めた瞬間がピークで、そこから少しずつ陳腐化していきます。稼働後にどのように成長させていくのか、活かし続けるのかが重要な視点です。

郡司陽介
アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 アソシエイト・ディレクター。2005年にアクセンチュアに中途入社後、様々な業界向けのカスタムアプリケーション開発や運用保守業務に従事。特に大規模プロジェクト管理の領域で豊富な経験を有する。その後、RPAやAIなどのAutomation導入案件の戦略立案、提案から構築、運用まで推進・支援する組織のリードを経て、現在はアクセンチュアが提唱する「Living Systems(生き続けるシステム)」を実現するための新組織で組織運営と案件推進を担当している。

浅井:Living Systemsの“Living”は「生き続ける」「活かし続ける」という意味を持つ人間的な言葉なので、私たち人間の身体に例えて説明することがあります。

例えば、現場で何が起きているのか最初に読み取ることは「視覚」、総合的な判断に必要となる会社の隅々まで循環しているデータは「血液」、取得した情報を整理して考えることが「頭脳」、実際に事業を動かすITシステムが「筋肉」など。私たちの身体と同じように、自分の意思で自由にシステムを動かせることが、Living Systemsで目指すべき姿です。

――Living Systemsが必要とされる社会的背景について、詳しくお聞かせください。

浅井:現代社会では激しい企業競争、ユーザーの嗜好の変化など、あらゆる局面で変化のスピードが高まっています。例えば、私が就職活動をしていた20年前には、プログラム言語はメジャーなものが1〜2種類あるだけでしたが、今は何から始めて良いのか迷ってしまうほどに多様な開発言語が使われています。最先端の技術が絶えず更新されていくので、企業そのものが変わっていく必要があります。

それに伴って業務やITシステムも変えなくてはいけません。フレキシブルな開発ではアジャイル開発手法などが挙げられますが、それだけではなく変化へ即座に適応できる企業にしていくことがLiving Systemsのコアバリューです。

現代の社会情勢を考えると、システムをすぐに改善できることが重要で、最初に作ったシステムをそのまま10年間使うという発想は、時代に合っていないと言わざるを得ません。

浅井憲一
アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 アクセンチュア・イノベーションセンター北海道 センター長。2001年にアクセンチュア入社、コンサルタント・エンジニアとして金融機関へのシステム導入をメインに、先端技術(自動化技術等)による業務変革のプロジェクト推進を多数経験。2017年からはアクセンチュア・イノベーションセンター北海道のセンター長としての拠点統括に加え、業界横断で先端開発案件のプロジェクト責任者・品質管理責任者として参画。北海道拠点の特色であるクラウド・アジャイル・アナリティクスなどを強め、アクセンチュアの拠点の中でも特徴的なエンジニア組織を率いる。

業務のデジタル化に必要なのは「現場を変える勇気」

――Living Systemsのコンセプトで、クライアントの業務をどのように最適化していくのでしょうか?

郡司:我々が着手するとき、最初に何が必要かというと、業務現場で何が起きているのかを正しく把握することです。いわば、Living Systemsの「視覚」ですね。オフィスや工場など、実際に企業活動が行われている現場のデータを効果的に集めることによって、改善の施策を正しく判断できるようになります。

昨今の企業活動は複雑で広範にわたることが多く、現場で起きていることを経営層が把握しにくくなっています。ボトムアップで問題や課題を理解するのではなく、何が起きているのかをデータで可視化していく。そうすれば施策や事業改善の手数が増えていきます。

そのために我々は、業務の現場で起きていることを全てデータ化したいと考えています。業務履歴を全てトラックできるようにして、手作業でやらなくて良いことは全部自動化していく。デジタルを業務の末端まで届けていくことが、我々の大きなミッションです。

――既存の業務を変革していくとなると、容易には進まないこともあると思うのですが。

浅井:社員の皆さんが行っている業務には今まで積み重ねてきた背景があり、個々の意思が積み上がっているものです。そのため、改善の必要性を感じていない担当者に変革の必要性を訴えたとしても、「そんな必要はない」と否定されたりします。

また、業務内容を変えることで、その企業の顧客に影響を与えることもあります。例えば、あるサービスへの申し込みをWebで完結させることで、それまで使っていた紙の申込書が必要なくなったり。それらの様々な変化も理解した上で、「現場を変える勇気」を持つことが重要です。

郡司:それに加えて私が現場で感じるのは、会社の制度やルールを整備していく必要性ですね。諸々のツールやロボットをどのように運用していくのか決めておかないと、DXの後で社内に混乱が生じてしまいます。

例えば、AIやRPAで業務を徹底的に効率化しようとしたとき、「承認の判断をする行為をロボットにやらせて良いんだっけ?」といった疑問が出てくることがあるんです。会社のルールとして認められないとなったときに、「そもそも人とロボットの役割分担とは」という最上段のルール決めが必要になってきます。

そういった取り決めがないまま進めてしまうと、プロジェクトが頓挫してしまうこともあります。細かい部分にも配慮していかないと、Living Systemsは実現できないと感じています。

浅井:また、壮大な取り組みになる場合には「どこから始めれば良いですか?」という話にもなります。アプローチは企業によって異なり、トップダウンで一気に進めていくこともあれば、業務データが溜まった領域から始めて小さな改善を積み重ねていくケースまで様々です。

業務のペインポイントや会社の最新状況をヒアリングして、どのように進めていくのが効率的なのか、最適なアプローチ方法を探すことが重要ですね。

ユーザーと近い距離でシステム改善に取り組める喜び

――TfLSではどのようなクライアントが多いのでしょうか?

浅井:現在のところ、アクセンチュアがBPO(Business Process Outsourcing)で受託している顧客企業に対して、Living Systemsの考え方を適用していく方向で進めています。顧客企業については、我々が既に業務現場の色々なデータを把握できているので、業務改革やデジタル化をスムーズに行うことができます。

お客様の業種は本当に様々で、金融、製薬、製造業など多岐に渡ります。Living Systemsの考え方は社会的にまだまだ新しいので、実績とノウハウをさらに蓄積し、その知見を活用しながら新規顧客も開拓していきたいと考えています。

――Living Systemsの今後の拡がりが楽しみですね。TfLSでは業務をどのように分担されているのでしょうか?

郡司:TfLSのメンバーの半分ぐらいがBPOの案件、あと半分がコンサル案件に携わっています。業務内容としてはどちらも同様で、RPAやワークフロー、AIチャットボットなどを駆使し、あるべきビジネスプロセスを構築しています。

浅井:進め方としては、短期的に我々が形を作って、そこから常に改善・調整を加えていけるようにするイメージですね。大切だと感じるのは、お客様と伴走しながら段階的に変革を進めていくことです。最初から組織として自走することはできないので、お客様自身でやれることを徐々に増やしていきながら、最終的には自走できるように導いていきます。

郡司:コンサル関連で最近多い相談は、先程もお話したように企業がツールを導入した時のルール設計です。例えば、AIの教育やメンテナンスをどのような体制・役割分担で進めていくのか。担当する人材をお客様の内部で育成することも、場合によっては必要です。

――TfLSにおける仕事のやりがいはどんなことでしょうか?

浅井:普段の業務で困っていることを我々が自動化やデジタル化していくので、お客様やユーザーの反応を確かめながら現場に近い距離で仕事をすることができます。これは本当に面白いんです。実際の業務現場を横で見ながら、直接ヒアリングして改善に取り組めるので。

郡司:それは私も感じますね。現在の業務に携わる前は、どちらかというとシステムやテクノロジーに主眼を置いて開発に取り組んでいましたが、今は業務現場へ直接入って業務効率化を推進できているなと感じています。経理部門、人事部門などにヒアリングして、実際の業務を見せてもらいながら改善点を議論することもあります。

また、システム開発でいうと、要件定義の前段部分から関わり、ソリューションを短期間で提供するので、ユーザーの喜ぶリアクションがすぐに見られるんです。数週間〜1ヶ月で作って、ユーザーの感想をダイレクトに確認できることもあります。使用感を反映して継続的な改善活動もできるので、働いていて非常に楽しいですね。

「全然使えない」と言われるとなかなか辛いですけど、「なぜ使えないのか?」という理由を直接会話しながら探り出せることにやりがいを感じます。なお、グローバルな案件も数多くあるので、英語ができる方であればグローバルタレントとして、より大きな成果を出すことにやりがいを感じる事も可能だと思います。

業務現場へ直接入り、クライアントやユーザーの反応を確かめながら業務効率化を推進できる、 この距離の近さが醍醐味だとふたりは口をそろえる。

――アクセンチュアの強みを生かした、グローバルな働き方もできるというわけですね。

浅井:TfLSは日本だけではなくグローバル視点でも業務を推進しているので、アクセンチュアのグローバルチームとも組織横断で情報交換しながら、広い視野を持って働くことができます。

アクセンチュアのCEO、ジュリー・スウィートが提唱している一つの概念として、「Shared Success」があり、ローカルとグローバルで達成した成功を共有することを進めています。日本で作ったものをグローバルでシェアしていく、もしくはグローバルで作ったものを日本にもシェアする。より広い視点で、効率的に高いクオリティを実現しようとする世界観が強まっています。

アクセンチュアのBPOビジネスでは、定型的な業務を効率化するなかでシェアできる内容が非常に多いので、日本の中でもグローバル連携が盛んに行われている組織だと感じています。グローバル人材のニーズも高いですね。

郡司:TfLSの仕事のスキームは組織横断で進行しているので、アクセンチュアのビジネス コンサルティング本部、いわゆる業務コンサル部門とコラボすることも多いです。

当然、テクノロジー開発チームとのコラボもあります。我々がデータを蓄積していくことを考えた時に、基幹システムについても議論する必要があるので。SAPに携わっているメンバー、Salesforceに携わるメンバーやカスタムでシステムを作っているメンバーなど、色々な人と連携しながらLiving Systemsの世界観を作り上げていきます。

フルスタックに活躍できる人材を育てたい

――アクセンチュアのTfLSだからこそ挑戦できることはありますか?

浅井:TfLSはできたばかりの組織ということもあり、業務内容や技術的なことを含め、メンバー同士でアイデアを出し合って取り組んでいます。組織を作り育てていくことを体験できますし、組織の連携や拡がりで達成感を感じられます。特にBPOはソリューションを提供する現場との距離感が近いので、本当に面白いと思いますね。

郡司:北海道、東京、大阪、福岡の各都市にいるアクセンチュアのメンバーとマルチロケーションで事業を進められるのも、楽しさの一つです。さまざまな開発拠点のメンバーを巻き込んでアドバイスをもらいながら業務を進めたり、一方、リモートワークが増えてきていて対面でやり取りできない中で「品質、効率だけでなく、メンバーのモチベーションを高く保つにはどういう施策を打てば良いのか」といった議論をしながら作業環境の改善をするなど、多方面の意見を取り入れて色々なことに挑戦できます。

私はアクセンチュアに中途採用で入社して17年目なのですが、未だに全く飽きず楽しく仕事を続けられています。組織内で自分の職位がどんどん上がっていき、同じ業務に終始するということがありません。プロジェクトの遂行に必要なソリューションを自由に変えることができ、それに伴ってコラボするメンバーが変わっていきます。「こんなことをやったら良いんじゃない?」という意見も通りやすいので、非常に風通しが良い組織だと感じますね。

――働くメンバーはどういったバックグラウンドの方が多いのでしょうか?

郡司:かなり様々だと思いますね。例えば、SIerでシステム開発をやっていた方、RPAやAIを専門にやっていた方、コンサルティング企業で業務変革に携わっていた方もいます。事業会社で働いていた方からの応募も多いですね。

浅井:私の印象として、事業会社でITに携わっている方は、業務部門との距離が近いことに比較的やりがいを感じているような気がしています。我々の組織(TfLS)も、BPOビジネスの影響でユーザーに近い距離感で業務を進めることができます。そのため、事業会社における仕事の延長線上で活躍できるのではないかと思います。

――最後に、TfLSの中で今後目指していくことについて教えてください。

郡司:短期的な視点でいうと、我々が目指す圧倒的な業務効率化に至っていない案件があるので、ソリューションの改善を今まで以上に進める必要があると感じています。この背景として、投資に対するリターンという部分が世の中へ伝わりきっていないところがあるのではないかと。Living Systemsをどのように伝えて社会に認知してもらうのか、注力したいと思っています。

あとは人材ですね。TfLSではすでに多くのメンバーが働いていますが、仕事のデマンドに対してのリソースが圧倒的に足りていません。必要な人材をしっかり定義して増やしていくのはもちろん、生産性を高めるために業務トレーニングの整備も進めていきたいと考えています。

浅井:アクセンチュアに限らず生産性を上げる一つの要素として、やはりIT技術をどんどん業務に活用していくことが重要です。企業や自治体がデジタル化やオートメーション化を進めていく時に、存在感のある組織になりたいと考えています。

アクセンチュアはどんどん規模が大きくなり、多種多様なコラボレーションで業務を進めていますが、それは当然やりつつも個々の能力も高めていきたいと思います。フルスタックエンジニアとしてデジタル化に対応できるような。

例えば、どこかの小さな地方自治体に派遣された時に何をやれば良いか考えられる。どのように業務を分析し、どのツールを使えば良いのかなどを、極論でいえば一人で判断できるようになってもらいたいと思います。

TfLSでは多種多様なコラボレーションで業務を進めていくが、今後求められるのは最後までやりきるフルスタックな対応力。適切な分析と最適な組み合わせによるデジタル化の提案で生産性向上に寄与していく。

業務をデジタル化していくのは、SAPの一大システムを作るような大規模な話ではなく、Low Code/No Codeに代表されるような小回りの効くツールを組み合わせるシンプルな作業だったりします。TfLSに入ってそのような技術や、業務内容の見方について基本を学んでもらって、フルスタックに活躍できる人材になってもらえたらと思います。メンバーの成長が、アクセンチュアだけではなく日本全体の生産性を高めることに繋がってくれたら嬉しいです。

  • TEXT BY VALUE WORKS
  • PHOTOS BY 安井信介
  • EDIT BY 瀬尾陽(Eight Career Design)
キャリアにエッジを立てる