生物学や人間の在り方から学び、デザインを創造する。太刀川英輔が選ぶ、再読の3冊


連載「再読のすすめ」の第4回は、デザイン活動体「NOSIGNER」の代表であり、これまでに100以上の国際賞を受賞してきたデザインストラテジストの太刀川英輔。同氏が2021年4月に上梓した著書『進化思考』(海士の風)を書き上げるうえで、ヒントとなった3冊を紹介する。

太刀川英輔
NOSIGNER代表・デザインストラテジスト。創造性の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、さまざまなセクターの中に美しい未来をつくる変革者を育てることで、創造性教育の更新を目指す。グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞他、100以上の国際賞を受賞。DFAA(Design for Asia Awards)、WAF(World Architecture Festival)等の審査委員を歴任。主なプロジェクトに、OLIVE、東京防災、PANDAID、山本山、横浜DeNAベイスターズ、YOXO、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。著書に『進化思考』(海士の風、2021年)、『デザインと革新』(パイ インターナショナル、2016年)がある。

生物の進化を学び直すことで、創造性を発揮する方法を読み解く

僕のライフテーマは、創造性。自分が創造的なものをつくり続けるとともに、創造的なものをつくれる人を増やすことです。

創造的なデザインをつくりたい、すばらしいアイデアを思いつきたいと考えると、「創造的な知はどのように生まれてくるのか」と、知の構造に自然と興味を持ちました。インターネットや車などをつくり出す人間の創造性は、自然界では超常現象のように見えますが、人間も生物。人間がつくり出す行為も自然現象であるはずです。こうした考えのもと、創造性を自然現象として読み解くのが僕のテーマです。

先日上梓した著書は「進化思考」という、以前から僕が教育を実践していた「創造性教育」の考え方をまとめたものです。生物の進化は変異と適応の繰り返しです。この繰り返しによって、ある形態に収束していったり、種が分化していき、現在の多様な生態系が発生しました。その中で生まれた生物の造形に対して、人間以上の創造性を感じることがありますよね。僕は、生物の進化と人間の創造は、今まで僕たちが想像していた以上に極めて近い現象だと考えています。

そもそも創造性を発揮する方法は確立された学習方法がないために、あの人はクリエイティブだけれど私はクリエイティブじゃない、といったコンプレックスの種になりやすいですよね。それに対して僕は、生物の進化を学び直すことで、創造性を発揮する方法を読み解けるのではないか、そして、人の創造的な営みをいろいろな角度で考え直せるのではないか、と確信しています。『進化思考』では、そのあたりのことについてまとめました。

こういった内容を語ったり、本にするデザイナーはほとんどいないと指摘されることもあります。僕がデザイナーとして変わっているところがあるとすれば、デザインは未来に役立つもの以外は意味がないと思っているところ。だから、これまで手掛けてきたデザインには、社会課題の原因や状況、生態系などにフォーカスしたものが多くあります。その参考にするため、人間や社会的な現象を生物学と対比した本、未来予想の本などもよく読みます。今回紹介する3冊も、その中から選びました。

制作に足かけ3年、約500ページにもおよぶボリュームの『進化思考―生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(海士の風)

現代の社会課題を50年前に予告した、ビジネスパーソンが押さえるべき1冊

『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』(ダイヤモンド社)著:ドネラ H.メドウズ

最近、「地球環境との共生が大事だ」「脱成長のモデルを目指すべきだ」という声をよく耳にするようになってきました。しかし、これらは最近になって言われ始めたわけではなく、1972年に出版された『成長の限界』ですでに提言されています。

ここには、資本主義がこのまま成長していけば人類がどのような課題に直面するか、科学的にリアリティをもって書かれています。50年前に書かれたのですが、驚くべきことに、まるで予言の書のようにほぼこの通りになっているんです。こういった本がすでに世の中にあり、それが世界的なムーブメントを起こした過去があったにもかかわらず、人類はそれを無視してきました。いま、そのツケが回ってきていますが、無視してきたから当然なんですよね。

起こり得る課題の対策として、この本には、温室効果ガスを差し引きゼロにする「ネットゼロ」や資源を循環させる経済の仕組み「サーキュラーエコノミー」などの起点になるようなヒントがたくさん詰まっています。これからのビジネスパーソンがSDGsに自覚的でなければならないと考えるなら、現在の環境に対する考え方の起源のひとつであるこの本を押さえておいてほしいと思います。

面白いものをつくりたくてデザイナーになった人は多くても、デザインで社会を良くすることに興味を持っている人は少ない。僕はデザインの力を信じているので、デザインで社会を良くしようという姿勢がないのはもったいないと考えます。社会課題には誰しもが関係していますからね。

「生物の進化」が常識とされるに至る、起源の本

『種の起源』 (光文社古典新訳文庫)著:チャールズ・ダーウィン

1858年にこの本が出版される少し前の18世紀後半まで、地球の歴史は数千年と考えられていました。でも、本当は何億年もの歴史があると地質学者が証明した。そこから、生物は悠久の時を経てだんだん進化していったのではないかとダーウィンは気づくわけです。いまでこそダーウィンが唱えた進化論は当たり前になっていますが、当時キリスト教をはじめとする神学的世界観では、動物は神様がつくったものでした。神様がつくったということはすなわち、初めから完璧なデザインであるはず。そういった思想から、進化論者は激しく糾弾されます。

その状況の中で、この本は生物が変異的なエラーと自然選択を何度も繰り返し、長い時間をかけて少しずつ変化してきた事実を、膨大な証拠とともに提示しました。それは概念だけにとどまらず、さまざまな動植物に対して、「この生物がこの姿かたちで生き残っているのは、こういった理由で適応したからではないか」ということが書かれています。

理論の基本的な構造は現在まで否定されずに、メンデルの遺伝の法則や、ワトソンとクリックのDNAモデルの発見など、のちの科学的探究によって立証されていっています。よもや生物の進化はこういうものだと、ある種の常識ができあがるところまでたどりついた、その起点の書が『種の起源』なんです。

昔の本だから読みにくいのでは?と思われるかもしれませんが、現代語訳もたくさん出版されています。いまは『若い読者のための『種の起源』 入門生物学』(あすなろ書房)などもあり、インフォグラフィックも盛り込まれていて読みやすいので、手に取ってみてほしいと思います。

未来に向けて、自分自身で希望をつくる重要性を教えてくれる

『アクティブ・ホープ』(春秋社)著:ジョアンナ・メイシー+クリス・ジョンストン

2015年に出版された、環境活動家であるジョアンナ・メイシーと医者のクリス・ジョンストンによる共著です。最近は、さまざまな角度から暗い未来が語られがちです。だからこそ、暗い未来を迎えないためのビジョンを描くことが大事だとこの本は教えてくれます。

具体的には、いままで我々が信じてきた文明の方針を大転換させなければいけないということ、そのためにはこう考えればいいということが、サイエンスとコーチングの両面から書かれています。紹介されている事例が面白いことに加えて、ワークがたくさん入っているのもこの本の特徴です。

この本で紹介されている中で僕がすごく好きなのは、ネイティブ・アメリカンが実践していたという7世代のワーク。自分が現代の人を代表して、7世代前あるいは7世代後の人と対話をするという儀式です。たとえば7世代後は、200~300年後。この儀式で個人ではなく現代人の代表として子孫と話そうと考えると、その世代を生きた人類として、未来の世代へ身勝手に負債を押し付けている現状を謝らなければという気持ちが起こります。それによって、現代人の在り方が見直されるきっかけになるわけです。

この本は、こういったワークを通して「他人任せではなく自分自身で希望をつくれるんだ」と気づきを与え、僕たちが自覚を持つことを促してくれるはずです。

「本から答えをもらうのではなく、自分の仮説と答え合わせするような感覚」と読書という行為について語る太刀川。先人のたちの歩みと対話することで勇気をもらう。

  • TEXT BY 三ツ井香菜
  • PHOTOS BY 木村文平
  • EDIT BY 山本莉会(プレスラボ)