「これは人類が経験したことのない悩みか」 迷いは読書で払拭する。友岡賢二が選ぶ、再読の3冊

連載「再読のすすめ」の第6回は、武闘派CIO、フジテック株式会社友岡賢二。 自社のDX推進のみならず、数々のイベント登壇やコミュニティ運営を手掛ける傍ら、趣味にも掲げる読書から、再読の3冊をセレクトいただいた。


友岡賢二
フジテック株式会社 CIO/専務執行役員 デジタルイノベーション本部長
1989 年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。独英米に計 12 年間駐在。株式会社ファーストリテイリング 業務情報システム部 部長を経て、2014 年フジテック株式会社入社。一貫して日本企業のグローバル化を支える IT 構築に従事。早稲田大学商学部卒業。

本を読むときは、どんどん書き込みをします。最近は、齋藤孝の『三色ボールペンで読む日本語』で学んだ読み方―「まぁ大事」なところに青の線、「すごく大事」なところは赤の線、「おもしろい」と感じたところには緑の線を引きながら読み進めていきます。シンプルながら、脳が鍛えられて内容も頭に入ってくる。おすすめの読書法です。

私は実は、人生の節目の決断に読書が大きく関わってきました。『青春の門』を読んで早稲田大学に進み、最初の就職先は、創業者の松下幸之助に著作を通じて影響を受けたことがきっかけです。

物事に悩みそうになったら、「これは人類がこれまで一度も経験したことのない悩みか」と自分に問いかけ、そうではないと感じたら、その領域の本を10冊買って読むようにしています。本、その中に書かれた人生の先人たちの教えは、灯台のように悩みを照らしてくれる存在だと思っています。

製造業の「三現主義」に通じる教え――物事を深く捉える秘訣がここに

製造業で学んだ「現場、現物、現実」の教え、いわゆる三現主義と呼ばれますが、なにか問題が起こったときには、「現場」に足を運び、「現物」を手に取り、「現実」を目で見ることを求められます。

実際に現場に足を運ぶことは自分の行動原則になっていますが、「なにをどのように見るべきか」については、きちんと教わる機会がありませんでした。「見れば分かる」と「見ても分からない」の差が、個人のセンスや能力差で片付けられていましたが、この本はその具体的方法を教えてくれます。

『デザイン思考が世界を変える』著:ティム・ブラウン(早川書房)

「観察対象の人々と根本的なレベルでつながり合う必要がある。これを私たちは「共感(エンパシー)」と呼んでいる。」 「デザイン思考の役割とは、観察から洞察を、そして洞察から生活に役立つ製品やサービスを生み出すことなのだ。」

本書では、現場でまずおこなうことは「共感」だと書かれています。例えば、病院の緊急治療室の改善を依頼された事例で紹介された「彼は足の怪我を装い、緊急治療室の一般的な患者の身になってみた(そして、実際に担架に横たわってみた)。」という一文には心が震えます。これこそが、現場、現物、現実の実践であると感じました。

また、DX案件ではお馴染みのPoC(Proof of Concept:概念実証)。お金と労力を掛けてソリューションを導入してみたものの、この検証段階でストップがかかる事例も少なくありません。そんな時は、やはり悔しい。そういったいくつものチャレンジを通じて改革を実行できるわけですが、「初期のプロトタイプの目的は、アイデアに実用的な価値があるかどうかを把握することだ。」という一文を深く噛みしめたいものです。

本にはどんどん書き込みをおこなう。たった一文でも心に残る文章と出逢えたら、一冊にかけた金額と時間の価値がある。

コミュニティ運営の心得と優れたリーダーシップ論

この本は、「オープンソースの歴史と発展」をカリフォルニア大学バークレー校在籍の政治学者が紐解いたユニークな本です。非常に洗練された組織であるオープンソースコミュニティがどのように運営され、その中でリーダーはどのような資質が必要であるのかを理解したいと思い、この一冊を手に取りました。

『オープンソースの成功―政治学者が分析するコミュニティの可能性』著:スティーブン・ウェバー(毎日コミュニーションズ)

*オープンソースとは、ソフトウェアを構成しているプログラム「ソースコード」を、無償で一般公開すること。そうすることで誰でもそのソフトウェアの改良や再配布がおこなえるようになる。これは、世界中の有志のプログラマにより、継続的に改良され続けるソフトウェア開発方式と捉えることもできる。

私自身、エンジニアコミュニティに参加しているのですが、「Linux」という大成功したオープンソースコミュニティから学びが得られるのではと思いました。本書では、Linuxの成功について詳細に書かれており、リーダーのリーナス・トーバルズが、コミュニティ運営のモチベーションを問われたときに、「なにかおもしろいことをやる集団への帰属感だ」と答えています。

オープンソースの原則は、自由であり、差別が無く、すべてを公開すること。ギブアンドテイクの考え方ではなく、徹底的なギブが根底にあり、みんなで共有し発展する。彼はリーダーとして集団を率いることを面白いと思っているのではなく、みんなが自由に開発を楽しむ集団のなかに帰属することこそが喜びであると表現しているんです。感動的なこの一文に出逢うために、私はこの本を開いたのだと思います。

少し話は逸れますが、同じくリーダーシップについて考えるときに、デレク・シヴァーズの「社会運動はどうやって起こすか」というスピーチが参考になりました。トーバルズの考え方は、この中で語られるリーダーシップ論とも相通じる重要な価値観だと思います。

わかりやすく簡潔でありながら示唆に富むこのスピーチにも、コミュニティ運営における金言が詰まっています。書籍と合わせて、コミュニティ運営、リーダーシップに興味がある方にぜひおすすめしたいです。

2500年以上受け継がれた物語には、人間社会の本質が詰まっている

『世界の童話 イソップのお話』(小学館)

最後に紹介する本は、少し意外に思われるかもしれません。この絵本は、もともとは約50年前に刊行された妻の持ち物で、息子が生まれた時に妻の実家から送られてきました。息子を寝かしつけるために、毎晩の読み聞かせに大活躍し、息子が眠りに落ちた後も面白くて一人で読んでいました。

なにしろ2年間、ほぼ毎日読んだ本なので愛着があります。物語の隅々まで私の心に沁み込みました。誰もが知っている『ウサギとカメ』や『北風と太陽』など、2500年以上に渡って時代を超え、国を超え、受け継がれ続ける物語には、人間社会の中で生きていくための教訓が詰まっていると思っています。

なかでも私が一番好きなお話は、『なかまはずれのこうもり』です。鳥とけものが戦争をする中でこうもりは、羽で飛べるからと鳥の仲間に入り、ねずみの親類だからとけものの仲間に入り、その立ち回りがどちらにもバレてしまい、最終的にはどちらからも仲間外れにされます。「ひとりぼっちで、ゆうがたから こそこそ とんでいます。」という結末は、ともすれば国家の安全保障にも通じる教訓だと思います。

作者として伝わるイソップは今から2500年以上前に実在したギリシア人で、イソップ童話は400年以上前に宣教師によって日本に伝わったとされる最初の西洋文学です。学生時代に読みふけった哲学本、マイケル・サンデル、『7つの習慣』、『人を動かす』など、人生に影響を与えた本はいくつもありますが、その中でもこの本をイチオシに選びたいです。今回は3冊ピックアップしましたが、国や民族、宗教、文化を超えて、今後も人類に永遠に読み継がれる物語はこの1冊でしょう。いつかこの本を孫に読み聞かせする日が来ることを楽しみにしています。

時には年間数百冊を読むことも。同領域の本を数冊読み込むと、その中に共通する本質が見えてくる。

友岡さんは、Eight主催イベント「DX CAMP」のアドバイザリーコミッティ委員を務めています。DX CAMPは定期開催しているDXリーダーのためのイベントです。
詳細は下記イベントサイトからご確認ください。(次回開催は2023年5月23日~26日です)
DXCAMP 2023

  • PHOTOS BY 丹野雄二
  • TEXT・EDIT BY 小田川菜津子(Eight)
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