読んで終わりではなく、一つでも学び実践する。――エバンジェリスト西脇資哲が選ぶ、再読の3冊

連載「再読のすすめ」の第7回は、日本を代表するエバンジェリスト、日本マイクロソフトの西脇資哲に話を聞いた。IT業界の伝道者、「人に伝えること」を生業とするスペシャリストに、ビジネスパーソンが明日から実践できる知恵が詰まった再読の3冊をセレクトいただいた。


西脇資哲
日本マイクロソフト 株式会社 業務執行役員 エバンジェリスト
日本経済新聞でも紹介されたIT 「伝道師」。 IT業界の著名カリスマエバンジェリスト。 1990年代から企業システム、 データベース、Java、インターネットのビジネスに関与し、1996年からオラクル社にてエバンジェリスト、2009年から現在はマイクロソフトにて多くの製品・サービスを伝え広めるエバンジェリスト。
コミュニケーションやデモンストレーションといった分野での講演や執筆活動も行い、製造業、 金融業、官公庁、 教育機関などでのプレゼンテーション講座を幅広く手がける。著書に「エバンジェリストの仕事術」、「プレゼンは“目線” で 決まる」、「新エバンジェリスト養成講座」 など。

普段から本はよく読みますが、実は論法やノウハウ本はあまり好きではなく、どちらかというとストーリーから学んだ方がよいと思っており、今回の3冊もストーリー中心の書籍です。人生は多種多様、十人十色でありそこには方程式や正解はないというのが私の考えです。だからこそ人は面白いし、人の成功談や時には失敗談からは学ぶべきことが多いのです。

また、エンジニア出身のためか、読んだ本からなにを得られるかにもこだわります。ただ読んで満足して終わりではなく、なにか真似して実践できることが書いていなければいけないと思っています。今回の3冊もそんな視点で選ばせていただきました。

マイクロソフト再興のキーマン、サティア・ナディラの思考法が解る一冊

『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』著:サティア・ナデラ(日経BP)

現在勤めているマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラが書いた本です。彼自身を良く知るためはもちろん、さらに強く復活したと言われるマイクロソフトの考えを知ることができる本です。ITに関係する人は必読書の一つだと思います。

彼は社内の人間の目から見ていても、多様性を認め常に周りに目を配り、意見を聞き、否定をせずに成長を求め、失敗をも容認する姿が印象的です。どうしてマイクロソフトの後継者として彼が選ばれたのかがわかる納得の一冊です。加えて、実は社員向けには「Employee Edition」という特別版があって、彼のサイン入りのオリジナル書籍が配られます。

そして、何よりも驚くのは、この書籍を出してから、さらにサティア・ナデラの快進撃が続き、会社の業績と株価が飛躍していることです。つまり有言実行の人でもあるのです。彼の思考法を知ると共に、現在のマイクロソフトの動きを追っていただくと、より理解が深まる一冊だと思います。

数々のビジネス書大賞を受賞した世界的ベストセラー

『HARD THINGS』著:ベン・ホロウィッツ(日経BP)

インターネットの黎明期にNetscapeの開発者だった著者ベン・ホロウィッツの本です。「HARD THINGS」とは苦難の道。まさに彼は苦難の道を歩み続けているわけですが、そこには完璧な回避策や万能薬など存在しないことが良く分かります。しかし、経営者は――ひとつの集合体のリーダーは時に大きな判断をしなければなりません。とんでもない苦難の連続だった彼の人生を知り、その節々でどんな気持ちでその判断をしたのかを知ることで、自分自身を見つめなおし、逆境に打ち勝つためのヒントにしています。

特に人との関係、上司と部下、経営者と社員、そういった部分でのストーリーも多く描かれており、それぞれが生々しいのも特徴です。自分の人生に置き換えて考えたときに、「物事がうまくいかないのは当たり前なので」と思わせることができる一冊だと思います。

「成功とはなにか?」を説く、ゾウの姿をした神様・ガネーシャによる究極の指南

俳優 古田新太さんがゾウの姿をした関西弁の自称”超有名な神様”ガネーシャを演じたテレビドラマでも有名な物語。このドラマの原作となっている『夢をかなえるゾウ』は、おそらく日本で一番売れた自己啓発本だと思います。

『夢をかなえるゾウ』 著:水野 敬也(飛鳥新社)

著者は水野敬也さん。平凡なサラリーマンがガネーシャの指南によって人生を変えていく物語で、そのヒントは著名人が語った名言や行動によるもの。私はもともと本から先に読んだのではなく、出張中の旅先でたまたまテレビを見ていたらこのドラマが流れていて、そこからで初めてこの作品を知りました。最初はただ「面白い番組だなぁ」と思いながらも気づいたら見入ってしまい、最後はこのドラマで描かれていた指南の通りに行動をしていたというくらい、実践しやすい分かりやすい教えが詰まっています。

「トイレ掃除をする」、「靴を磨く」といった凄く身近で一見すると当たり前のようなことが書かれてはいますが、なかなか実践できている人はいないはずです。私はこの本から、様々なことを学び、行動に移しました。そして、その教えを思い出すために家にはガネーシャのイラストを見えるところに飾ってあります。

――今回ご紹介頂いた本の影響で、特に日々実践されていることはありますか?

良ければ、ぜひ写真に撮ってください。先ほども話にでたガネーシャの教えに倣い、靴はいつもピカピカにしています。靴に関しては忘れられないエピソードがありまして、20代の頃、クライアントとの会食の時になぜだか先方が私の足元をじっと見ていたんです。どうしてだろうと足元を見ると、ほんの少しだけ革靴の先が汚れていたんですね。それに気づいたときにたまらなく恥ずかしくなりました。身だしなみが乱れているということは礼を尽くせていないということ、少しの心がけができておらず、それを先方に見抜かれていたという事実は、今でも心に深く残っています。それ以来、「当たり前のことを当たり前に実践する」ということを心がけていますね。

西脇さんは、Eight主催イベント「DX CAMP」で、DX推進・事業成長のヒントとなる講演をご担当いただいています。DX CAMPは定期開催しているDXリーダーのためのイベントです。
詳細は下記イベントサイトからご確認ください。

DXCAMP 2023

  • PHOTOS BY 丹野雄二
  • TEXT・EDIT BY 小田川菜津子(Eight)
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