「ティール組織は誤解されている」──書籍刊行から2年、解説者・嘉村賢州が真意を語る

2018年初頭、『ティール組織』が国内で刊行された。ビジネスシーンへの影響は大きく、「フラット」を標榜する組織も増えている。しかし、ティールを日本に持ち込んだ同書の解説者・嘉村賢州は「『フラット』とは似て非なるものだ」と話す。ティールへの誤解が蔓延した現状に光を当てる。


『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(著 フレデリック・ラルー、訳 鈴木立哉、解説 嘉村賢州)が日本で出版されてから、2年ほどが経つ。「ティール」という言葉は、多くのビジネスパーソンに広まった。本書で提唱されたティールとは「変化の時代に適応し、自律的に進化していく組織モデル」のこと。組織のメンバーそれぞれが裁量を持つのが特徴だが、それはあくまで一側面だ。

嘉村は「フラットな構造だけを真似してもうまくいかない」と警鐘を鳴らす。ティールの現在地とこれからを、嘉村とともに探る。

一人歩きする「ティール」という概念

ーーティールという概念は、かなり広まったように感じます。

おかげさまで、組織論の専門家だけでなく、あらゆる規模の企業から行政に至るまで、幅広い層の人たちに広まりました。書籍の部数は、8万部を超えたそうです。いまも頻繁に講演会の依頼が届いており、多くの方が興味を持ってくれているようです。ティールは5年、10年をかけて大きなインパクトを起こす概念だと考えていたので、ここまで早く広まるのは予想外でした。

インタビューは、東京工業大学にある嘉村の研究室で行われた。

ーーそれでは、現状を「うまくいった」と捉えられていますか?

一概にそうは言えません。多くの人が表面的にしかティールを理解していないように思います。結果として、理想論として扱われ、流行のように消費されてしまっている。

ーーというと?

たとえば最近は、ティールを「名乗る」だけの組織が増えてきました。ブランディングになり、採用にも効くからでしょうね。そうした“ティール的な”組織をメディアが取材し、誤解がさらに広がってしまっている。フレデリック(・ラルー)が提唱するティールと、メディアで伝えられるそれは、もはや別物です。ティールという概念が、一人歩きしてしまっています。

ーー誤解がさらなる誤解を生む、悪循環が起きてしまっていると。

さらに良くないことに、誤解を助長するビジネスも現れはじめています。間違った理解に基づくティール化のコンサルタントや、診断ツールなどが登場しているんです。組織づくりの経験をある程度積んできた人にとって、ティールが流行し、組織への関心が高まっている現状はビジネスチャンスになりますから。

ーーコンサルタントや診断ツールすらも、間違っているんですね。

一つの物差しで組織の良し悪しを測ることや、計画的に組織変革を進めることは、ティールのそもそもの考え方に反します。安易にコンサルタントや診断ツールに頼るのではなく、まずはフレデリックの言葉がそのまま書かれている『ティール組織』をしっかり読んでほしいです。

ビジネスの機会に人が集まるのは自然なメカニズムで、悪いことだとは思いません。けれども、ティールに興味を持った人が、コンサルタントや診断ツールを入り口に、誤った組織変革を進めてしまうのは残念すぎる。

ーー最近では、ティールの流行も落ち着き、逆に「フラットな組織はうまくいかない」といった論調も出てきています。

そもそも、ティールは「非階層」や「フラット」などのキーワードと結びつけて語られがちですが、それは誤解です。たしかに『ティール組織』では、非階層で機能する組織も取り上げられています。でも、それは存在目的や心理的安全性といった要素が揃った稀有な例です。

ティールを提唱するフレデリックは、むしろ「ほとんどの組織において、自然な階層構造は生まれて当然」とすら考えています。先頭に立つのが好きな人もいれば、後からついていくのが好きな人もいますからね。他の仕組みを整えないまま階層をなくしても、カオスが訪れるだけです。失敗するのは、当たり前だと思っています。

ティールは“導入”するものではない

ーーでは、ティールを正しく導入するためには、何から始めればいいのでしょうか?

その質問が、そもそも間違っているんですよ。「ティールを導入したい」という人は、その時点でティールを正しく理解できていない。

嘉村は静かな語り口ながら、熱のこもった言葉を放つ。

組織は、子どもに似ています。僕たちは子どもの進む道をともに探し、その実現を手伝うことができます。けれど、その成長を管理はできない。組織も同じで、「ティールにしよう」と動いてうまくいくものではありません。ティールは手段ではなく、歩むべき「旅路」のようなものなのです。

ーー「ティールにする」ではなく、「ティールになる」が正確というか。

そうです。大切なのは、うまくいっている組織の型を真似ることではなく、自分の組織がいまヘルシーな状態なのかを考えること。経営層や人事部が主導するのではなく、現場のメンバーが主体的に話し合い、試行錯誤を続けた先に、いつの間にかティールになることもある。「導入」というフェーズはないんです。

ーー「特定の型を当てはめれば、どの組織もうまくいく」と考える人が多いことも、ティールへの誤解が広まった要因かもしれませんね。

そう思います。ティールに影響され、純粋に組織を変えたい想いから行動を起こすのは、何も悪くないんですけどね。しかし、「こういう組織にしたい」というリーダーの身勝手に付き合わされるのは、メンバーにとって迷惑でしかないでしょう。

何もかも、あの一冊に書かれている

ーープラスの原動力によって組織にマイナスな影響が起こってしまうのは、やるせなさを感じます。安易な答えを求めたいわけではありませんが、仮にティールの旅路を歩みたい人にアドバイスするなら、どのように声を掛けられますか?

とにかく『ティール組織』を読み込み、フレデリックの考えを深く理解するのが最短距離だと伝えます。「組織を変えたい」というのに、要約だけを読んで分かった気になり、他人にアドバイスを求めるようでは甘いです。

たとえば、サイボウズ代表の青野慶久さんは「ティールに感銘した」と話されていて、本は付箋だらけでボロボロでした。組織を変えるための方法は、ほとんどのことがあの一冊に書かれています。そして何より、組織を変革するための答えを見つけるには、変化を起こしたい本人と組織の人びとの内面を探るしかありません。

ーーなるほど。その過程を、もう少し詳しくお聞きできますか。

まず、そもそも本当に自らの組織をティール化したいのかを考え抜くこと。現状の組織で、心の底から許せない事象はあるのか。あるとすれば、それをどう変えたいのか。その理想の姿を、ティールという言葉を使わず語れるのか。これらの問いにすべて「イエス」と答えられるなら、その想いを組織のメンバーに伝えてください。このとき、説得しようとしてはいけません。

メンバーから心からの共感を得られたら、あとはメンバーと変革の進め方を相談するだけです。それさえできれば、組織は自然に進化します。

ーー自身や組織に対する深い洞察が求められると。

要は、リーダーの器が大きくなければ無理なんですよ。世の中に素晴らしいものを届けたい想いと、すべての人間を尊重できる徳が持てないまま、ティールの方法論だけを真似ても、うまくいきません。

ティールの旅路を歩むためのプロセス

ーー2019年2月には、翻訳を担当された『自主経営組織のはじめ方 ― 現場で決めるチームをつくる』(英治出版)が発売されました。この本は、ここまでお聞きした課題に対する、アクションの一つのように思えます。

ティール化するには、自分たちを見つめ直すしかないとお伝えしました。とはいえティールは新しいパラダイムであり、そのプロセスが多くの人にとって想像しにくいのも事実です。

ここまでお話しした要点を抑えるのは前提ですが、ティール化の手法はいくつか発明されているんですよ。既に日本で有名になっているホラクラシー(※)も一つの方法で、かなり具体的にやり方が既述されています。今回はまた違ったやり方を紹介したく、翻訳しました。

(※)ホラクラシー:ホラクラシーワン社のブライアン・ロバートソン、トム・トミソンが2007年に開発した、組織経営の新しい方法。ホラクラシー憲法、ガバナンス・ミーティング、タクティカル・ミーティングなど、ユニークな仕組みやツールを活用して組織内の透明性を飛躍的に高め、上下関係を撤廃して個々人の主体的な働きを促していくもの。

ーーなるほど。具体的には、何について書かれた本なのでしょうか?

ティールの代表事例とされる、オランダの在宅ケアサービスを提供する非営利組織のBuurtzorg(ビュートゾルフ)で採用された組織経営手法について書かれています。

具体的には、緩やかに階層を残しつつ、一人ひとりが自由に意思決定できる、変化に強い組織をつくる方法論です。10年余りで10人から1万5000人ほどまで成長したビュートゾルフが、どのような手法をもとに、その変化の旅路をスタートしたかが理解できると思います。

ーーなるほど。ビュートゾルフは、『ティール組織』でも事例として触れられていましたよね。

事例として伝えていきたい組織や翻訳したい本は、世界各国にたくさんあります。隠れた叡智は、日本にも眠っているかもしれません。その組織が、ティールを謳っていなくとも。それらを研究し、発信やカリキュラムづくりをしていきます。

嘉村が手がける新しい訳書は、ティールの一事例を伝えるものだという。

なぜ、フレデリック・ラルーの考えに心酔するのか

ーー今後もしばらくは、フレデリック・ラルーの考えを広めるために時間を使われると。なぜそこまでの情熱を持てるのでしょうか?

とにかくティールの考え方と、フレデリックの人柄に心を打たれたからです。僕は自分の組織を運営していて、一人ひとりに自由に働いてほしい一方、仕事中に雑談しているメンバーを見て苛ついてしまったりしていた。

そんな自分や、組織という概念そのものに違和感を抱いていた中でティールに出会い、そのコンセプトに感服しました。そして、フレデリックに会ってみると、本から読み取れる通りの優しい人物だったんです。

ーーフレデリック・ラルーと対面された際のエピソード、お聞きしたいです。

ティールに感銘した嘉村はフレデリック・ラルーに会いに行き、日本での『ティール組織』刊行に漕ぎ着けた。

これまで素晴らしい本をたくさん読んできましたが、著者と会ってみると違和感を持つことも少なくありませんでした。優しい世界観を標榜しているのに、現実では権威を振りかざすような人もいました。

しかし彼は、あくまで相手と対等な立場を好み、東工大に来たときは生徒たちと真摯に向き合ってくれた。この人の考えを、正しく伝えたい──心からそう思いました。

ーーティールへ感銘と、フレデリック・ラルーへの敬愛が原動力になっているんですね。

そうです。ただ、彼はティールについての動画を100本ほど公開した後、ティールに関する活動をやめてしまいました。決してティールへの情熱が消えたわけではありませんが、環境問題に挑みたい想いが生まれたそうです。

彼の子どもたちが、心から「子どもを産みたい」と思える世界をつくるために、人生の残りの時間を使いたいと。そうした背景もあって、彼が来日したとき、「日本でティールを伝える役目は任せた」と僕に言ったんです。

僕は彼からバトンを受け取ると決めました。しばらくは、ティールの正しいあり方を広めるため、彼の考えを広める伝道師として活動し続けたいと思っています。

手厳しく思える言葉を放つ嘉村。しかしその裏には、受け手を包み込むような優しさが垣間見える。

  • TEXT BY 岡島たくみ(モメンタム・ホース)
  • PHOTOS BY 玉村敬太
  • EDIT BY 小池真幸(モメンタム・ホース)