「人との出会いこそが“いいしごと”の源泉。」──5つの愛用品から見る横石崇の働き方

国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week(以下、TWDW)」のオーガナイザー横石崇は、「新しい働き方」や「未来の会社」について考える数々の「場」をつくり続けてきた。そんな横石は、自身の働き方についてどう考え、何を目指しているのか。横石の“いいしごと”に欠かせない5つの愛用品とともに聞いた。


――横石さんにとって、自分らしい仕事の仕方とはどんなものですか?

とにかく目標とか事業計画というものがない。料理にたとえるなら、つくりたい料理を決めてから食材を買いに行くのではなく、冷蔵庫に今あるもので料理を美味しくつくりたいということでしょうか。最近、「エフェクチュエーション」という理論に出会いましたが、まさに僕のための理論かと思ったぐらいです。

エフェクチュエーションとは、熟練の起業家が実践する意志決定の理論。目的のために事業計画を練りプロセスを決定していくのではなく、自分の持っているリソースから最大のリターンを出そうという考え方です。

常に目の前の人と一緒にいる意味を考えること。そして、その解釈を結びつけながら、新しいアイデアや価値、可能性を生み出すこと。これが、自分らしい仕事の仕方だと思っています。

――普段、横石さんはどんな働き方をしているのでしょうか。

自身で運営している鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」と渋谷にできた会員制の協創施設「QWS」を拠点に行ったり来たりしながらプロジェクトプロデュースをしています。

QWSは面白いんですよ。ここでは仕事をしている傍らに、自分がいま持っている「問い」、つまり取り組んでいることや関心のあることを書いた札を立てることになっています。興味深い「問い」を掲げている人がいたら、自由に話しかけて良い。それが媒介となって、普通のオフィスやカフェではないような偶発的な出会いがあるんですよ。

――「問い」を介して、誰かに話しかけたり、誰かから話しかけられたりといったコミュニケーションが生まれるんですね。

そうなんです。同じような問いを持っている人と出会えたら嬉しくなりますよね。しかし、近頃のオフィスでは「Why(なぜ?)」という「問い」を語れる場が少なくなってきました。人生とは何たるかを語ったり、そもそも論を語り合うような機会がない。かつてそれが行われていたのは、休憩室や喫煙室だったり、会議の延長にあった居酒屋だったのかも知れません。しかし働き方改革の影響もあって、職場では手法や方法論としての「How」や「What」ばかりが語られるようになってきた。

でも「Why」を持たないと、自分らしい働き方って見つからない。ですから、小さくても構わないので「Why」を生み出せる場所づくりに興味があるし、自分もそうした場所で働きたいと思っています。ちなみにさっきまで知り合いとは、なぜ「嬉(しい)」という漢字は「女が喜ぶ」と書くのかをずっと議論していました。

横石崇の“いいしごと”をつくるアイテム

(写真左上から)名刺入れ、AirPods Pro、NIKEidでカスタマイズしたエピック ファントム リアクト フライニット、豊川融通稲荷尊天の「融通金」、自分と娘の似顔絵

1.超大容量の名刺入れ

4cm程度もの厚みがある、大きな名刺入れ。中には名刺がぎっしり。

僕が“いいしごと”をするのに必要条件なのが、人との出会い。「一日一会」を標語に、1日に1人は初めて会う人と話すようにしています。

そんな僕にとって、名刺入れは必須アイテム。Eightでコネクトするのが当たり前の時代ですが、紙の名刺交換もまだまだ現役ですから。名刺が切れてしまう状況が嫌で、超大容量の名刺入れを持ち歩くようになりました。たまたま入った雑貨屋で見つけて、ストック分まで買い占めました。厚すぎて紐をクルクル回して閉じなきゃいけないのは面倒だけど、それもまた愛おしいです。

2.AirPods Pro

「&Co.」 の刻印入り。

出会いを楽しむためにQWSで仕事をしているわけですが、一方で、仕事に集中したいこともあります。そんなとき便利なのがAirPods Pro。「&Co.」の名入れをした愛用品です。

音楽はかけないで、ノイズキャンセリングで外部の音を遮断して無音状態をつくります。一瞬で作業に集中できる環境がつくれますし、「いまは話しかけられたくない」という意思表示にもなりますから。

偶発的な出会いに満ちた場所で働いているからこそ、時間や場の使い方は、自分でコントロールしないといけないと思うんですよね。

3.NIKEidでカスタマイズした「エピック ファントム リアクト フライニット」

「靴ずれの痛みが少しあるだけでも、集中状態が途切れてしまう」。

人との新しい出会いは、足で稼ぐことも必要。ただ、革靴だと足が痛くなるんですよね。だからいつも足元はスニーカー。従来品のカラーをカスタマイズできるNIKEidが好きで、脱ぎ履きの楽なスリッポンタイプをいくつも持っています。

組織の時代ではなく個の時代――こんなふうに言われるとおり、これからは個々が自分のビジョンやミッションを表明していく時代。新人のころは、相手の靴を見てその人を見極めろなんて言われましたが、靴がキレイかどうかよりもその人らしいかどうかが大事ですよね。ファッションは、仕事面でもパーソナルアイデンティティを示す一要素でもあると思っています。

4.豊川融通稲荷尊天の「融通金」

「お金に困らないよう、財宝を融通する」ご利益があるという。

独立してからずっと赤坂にある豊川稲荷東京別院へ初詣に行っています。目当ては、境内内にある豊川融通稲荷尊天。ここでお参りすると頂ける「融通金」という金運のお守りには、1年後に返礼しなければいけないという面白い習わしがあるんです。

中に入っているのは十円玉ひとつ。それでも、いざもらってしまうと「もらった以上は返さなくちゃ」という返報性が働くので、頑張って働かないと来年返せないぞというプレッシャーになります。小さな借りから、小さな責任感が生まれるんです。

これって、僕が人間関係で意識していることでもある。いきなり大きな仕事を頼むのではなく、「ちょっとイベントに出てくれませんか」といった小さなお願いから信頼関係を積み重ねていくことと同じなんです。「融通金」を財布に忍ばせてあるのは、それを思い出させてくれるアイテムだからです。

5.自分と子どもの似顔絵

似顔絵を持つのは「家族の気配を持つ」ためと語る。

我が家の家訓は「働き方を語る前に、皿を洗え」。妻からのありがたい言葉です。暮らしという当たり前のことをやって初めて、働き方を語る資格がありますから。

これを痛感したのは、子どもが生まれてから。恥ずかしながら、最初は子育てをなめてたました。でも、子育てって仕事の比にならないぐらい思い通りにならないことだらけ。未来の計画なんて立てられたもんじゃない。だから皿洗いは、未来に生きるんじゃなくて、いまを生きることの大切さに立ち戻らせてくれます。

家族写真はちょっと気恥ずかしいので、イラストをカバンに入れています。友人が描いてくれたこの娘との似顔絵は、そうした忘れがちな当たり前を思い出させてくれるんです。

多様な「問い」と多様な「働き方」が許容される社会を目指して

――横石さんが目指す、働き方の未来について教えてください。

すべての人に、多様な働き方の選択肢が与えられる社会であってほしいですよね。

僕が働き方について考えるようになったのは、東日本大震災以降。陸前高田でボランティアをしていたとき、村長さんに「横石くんみたいな若者は、こんなところにいないで、子どもたちが大人になったときのための“希望”をつくってほしい」と言われたのがきっかけでした。

それまで、僕は広告代理店で数千万人を相手にするような仕事をしていて、どこかで満足感を得ていました。でも村長さんの話を聞いて、目の前の一人のためにできることをやることに大きな意味があることに気づかされたんですよね。

でも、目の前の一人を変えるのって、口でいうほど簡単じゃない。ようやくTWDWを通して、目の前の一人を変えることが結果的には社会を変えていけるんだという実感が湧いてきました。

当時、陸前高田で出会った子どもたちはいま、ようやく高校に入学するぐらいの年齢です。彼らが成人するまでのあと数年間で、“希望”をつくっていかないといけない。それがぼくに課せられたミッションでもある。

なぜこのアイテムを選び仕事をしているのか。そんな小さな「問い」からでも、自分の仕事観が見えてくる。

――働き方の多様性こそが希望になる、ということでしょうか。

そうですね。特に東北をはじめとする地方では働き方の選択肢が狭められています。都会だけでなく、日本のすみずみの一人ひとりまでもが自分らしい働き方を選択できるようにならないといけない。今年からTWDWは全国各地を巡回することになりそうなので、いまからその準備に追われています。

そして、その選択をするのはその人自身であり、それぞれで問いを持つことが必要です。ただ選択肢だけ並んでいても、「Why」を持たなければ適切なチョイスはできませんから。その意味で、多様な「Why」が尊重される日本社会にしていくこと。それが僕の信じる未来であり、自分の仕事です。

撮影協力:SHIBUYA QWS

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  • TEXT BY 有馬ゆえ
  • PHOTOS BY 河合信幸
  • EDIT BY 大村実樹(東京通信社)