人に共感されるものには必ずストーリーがある。土屋尚史が選ぶ、再読の3冊

連載「再読のすすめ」の第2回は、UI/UXデザインを強みに数々の企業支援を行う、株式会社グッドパッチ CEOの土屋尚史。企業成長に必要なヒントが詰まった3冊を紹介する。


困難に直面したときこそ、読みたい本がある

本は普段からたくさん読んでいますが、ビジネス書はいわゆるハウ・ツー本ではなく、起業家・会社の成長軌跡が描かれている本が好きです。漫画もたくさん読んでいて、特に週刊少年ジャンプの王道とも言うべき漫画は大体読んでいますね。ジャンプは全作品に「友情・努力・勝利」の三大原則が盛り込まれていますが、そこで描かれる、大きな目標に向かって仲間と一緒に挫折しながらも、逆境を乗り越えて這い上がっていくようなストーリーに魅力を感じます。図らずも、グッドパッチの創業期から今に至るまでの軌跡と重なるところがあります。

井上雄彦さんの「SLAM DUNK」は勝負ごとの前に必ず読み返しています。特に山王戦は外せないですね。勝ち目のない相手に逆転勝利をする王道ストーリーですが、仕事においても厳しい状況に直面することがあり、そういうときに「SLAM DUNK」が自分を奮い立たせてくれました。

私たちグッドパッチは6月に上場をしたばかりですが、過去には組織存続の危機に直面することもありました。そうした会社の軌跡をいつでも追体験できるように、私はブログを通して社内外に発信するようにしています。そこでは王道の漫画から学んできた、人に共感してもらうストーリーという視点が役に立っていると思います。

写真提供:株式会社グッドパッチ

理想とする企業カルチャーの全てがここにある

『ピクサー流 創造するちから』著: エド・キャットムル /エイミー・ワラス(ダイヤモンド社)

グッドパッチの企業カルチャーの土台は、初期からピクサーに影響を受けているんです。 いつか起業をしたら、こういう会社を作りたいと思っていた理想像が全てこの本に書かれていました。

例えば、「失敗に向き合う」ことです。失敗のコストは将来への投資でもあるため、できるだけ早く失敗すること。そして、社員が失敗を恐れずに立ち向かえるようになるには、リーダーが自らの失敗について果たした役割をオープンにすることが重要だと書かれています。

この考え方に影響を受けて、グッドパッチでも社内で起きた失敗を隠さずオープンにしてきました。失敗を良しとするカルチャーを作り、それをあえて世の中に発信することで、共感を得られるようになってきました。あとは、「チームで働く」という考え方ですね。一人の天才ではなくて、チームでクオリティを上げていく。「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる」という、私たちが大切にしている価値観も全て、ピクサーから学びました。

時代が変わっても、大事なことは変わらない

『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』著: ダニエル・ピンク(三笠書房)

この本自体は、2006年に発行されていたのですが、私が最初に読んだのは2019年。実は最近になって読んだ本なんです。ずっと読もうと思っていたけど、実際に読む機会がなく積読していました。読んでみたら、この本を読んで起業したのでは......?と思うくらい、これまで行ってきたことの考え方や価値観に近いことが書かれていました。

例えばここで語られている新しい時代に必須となる6つの感性(1.「機能」だけでなく「デザイン」 2.「議論」よりは「物語」 3.「個別」よりも「全体の調和」 4.「論理」ではなく「共感」 5.「まじめ」だけでなく「遊び心」 6.「モノ」よりも「生きがい」)は、まさにグッドパッチが掲げているバリューが具体として示されているなと。今、デザインの仕事をしていることが、この本によって導かれたんじゃないかという錯覚に陥りました(笑)。

でも、ハイ・コンセプトに書かれていることは、必ずしも新しい考え方ではない気がします。高度経済成長期に、お金を稼いで、いい家に住むことが幸せである、というような価値観が生まれた。それも大事なことだったのかもしれないけれど、モノの価値が相対的に下がっている今、経済的な観点からの価値だけではなく、相手の状況に自分を置き換えて考えられる「共感」が大事だということがちゃんと書いてある。それって実は、昔から変わらない大事なことですよね。

経営者としてのスタイルに影響を受けた

『不格好経営』著:南場智子 (日本経済新聞出版)

南場さんの飾らない、チャーミングでオープンな人柄に憧れているので、何度となく読んでいる1冊です。まるで南場さんが語りかけているような文体で綴られています。新卒でマッキンゼーに入社されて、輝かしい経歴で成功を約束されているような人なのに、DeNAという会社を起業して、最初から失敗しまくるわけですよ。苦しいことしかなかった、創業初期の歴史を全てさらけ出している、等身大の南場さんの考えがここに収められています。

最近になって読み返したとき、まえがきに書かれている言葉にはっとさせられました。

「私は苦しいときふたつのことを意識する。ひとつはとんでもない苦境ほど、素晴らしい立ち直り方を見せる格好のステージと思って張り切ることにしている。そしてもうひとつは、必ず後から振り返って、あれがあってよかったねと言える大きなプラスアルファの拾い物をしようと考える。うまくいかないということは、負けず嫌いな私には耐えがたく、単に乗り越えるだけでは気持ちが収まらない。おつりが欲しい。そういうことだ。3番目を付け加えるとすれば、命をとられるわけじゃないんだから、ということだろうか。たかがビジネス。おおらかにやってやれ、と。」(不格好経営 まえがきより抜粋)

私がこれまでグッドパッチで行ってきたことも、まさにこういうことだったんですね。この本を穴が開くほど読んできたけれど、このまえがきに南場さんのメッセージが凝縮されていることに改めて気がつきました。私自身、南場さんに強く影響を受けてきた自覚はありますが、知らずしらずのうちにこの通りにしてきていたんだなと思いましたね。

初出:BNL(2020.08.06)

  • TEXT BY 青木真理子(BNL)
  • PHOTOS BY 木村文平