自分の中にいくつも分人がいて、常にどれかがオンになっている
──佐藤ねじの「問いの立て方、思考のほぐし方」

まだ世の中で見つかっていない空いてる土俵を発見し、「空間体験・商品企画・WEB・PR・こども・グラフィック」の6つの領域で、コンテンツを生み出すブルーパドル代表の佐藤ねじ。独創的なアイデアを次々と形にしてきた彼は、どのような「問い」を立てて仕事に向き合っているのか?自らを「仕組み化」をしていくような、そのユニークな思考に迫る。


自ら問いや課題を設定し、それと向き合うためのルールをつくっては試す

――「着想の種」を育てるために取り組んでいることを教えてください。

以前から僕は、「今週のアイデア」という自分がつくったフォーマットに、思いついたアイデアやさまざまな情報などをまとめていたんですね。これまではメモ帳を使っていたのですが、最近はiPadやスマホなどで記録するようになり、情報整理の時間が劇的に短縮されました。ただ、情報整理の作業もルーティン化し過ぎると飽きてしまうので、ベースはクラウドで整理しつつ、時にノートを使ってみたり、モチベーションを保つために環境やツール、場所などを時々変えるように意識しています。また、独立してからは、会社員時代にはできなかったルールや働き方もライフハック的に導入するようになりました。

――環境やツールを変えるというのは、あえて通常とは違うルートで通勤をしてみるような感覚に近そうですね。

そうですね。最近は自宅のリビングにパソコンを置き、朝起きたらすぐにそこで情報整理などをしているのですが、緩やかに変えたやり方がハマることというのがたまにあるんです。これまで家では作業をしないようにしていたのですが、リビングにパソコンを置くことで、自分の仕事について子どもと自然に話すことができるし、仕事をしている風景が見えることは教育的にも良いことかなと思っています。

――日々の仕事において習慣づけていることはありますか。

色々ありますが、例えば僕は毎日目標を立て、それが実行できたかどうかを自己評価するということを続けています。目の前のことに追われながら仕事をしていると、今日はよく働いたという気持ちになりがちですが、実は生産性がないことをしていたり、自分にとってあまりプラスになっていなかったということは少なくないと思うので、いわば自分の中でPDCAを回すようなことをしています。

その中で、今年から自分なりのKPIを定める意味で、目標が達成できた日はGoogleカレンダーに星マークをつけるということを始めました。例えば、1週間のうち、星が4〜5個ついた時は自分の状態が非常に良いということがわかりますし、仮に毎週続いたとしたらその年はとても良い1年だったということになる。それができればベストですが、いまのところ、そううまくはいっていません(笑)。

Googleカレンダーに星マークをつけることで、毎日のスコアが可視化されていく、そこからまた仕組みの仮設を立てていく。

――感覚的な部分での評価はなく、仕組みをつくって評価するということを徹底しているんですね。

そうすることで自分の行動を客観的に見られるんです。例えば、僕はいつも土曜の日中を自分の作品制作の時間にあてていて、夜は家族との時間にすると決めているのですが、先日ある話題をずっとネットで追いかけてしまったんですね。そうなるともう制作モードではなくなってしまうので、その日は事務所から戻って家族との時間を過ごした後、23時から深夜1時くらいまで作品制作をしたんです。そうすると、結果的にネットサーフィンと作品制作の時間が入れ替わっただけで、自分の目標は達成したことになる。これらは企業におけるKPIやOKRなどの考え方に近くて、普段の仕事の中で機能したメソッドやフレームワークを自分自身にも適用していくということはよくしています。

――自ら課題や問いを設定して、それらと向き合っていくためのルールをつくることで、自身の目標達成を促しているんですね。

ここ数年、自分の中で仮説思考というのが強まっているんです。最近は仕事や作品制作を通して、自分が立てた仮説を検証していくようなところがあるのですが、それによって自分自身が段階的に上がっていける感覚があるんです。この仮説思考は、日々の働き方にも反映されています。先ほど、Googleカレンダーの話をしましたが、星がついた日に何か共通のパターンが見出だせないかと考えてみたところ、マッサージに行っている日が多いことがわかりました。自分の問題意識として、いかにゾーンに入っている時間を増やせるかということがあるのですが、振り返ってみるとマッサージをした後にアイデアやデザインのブレイクスルーが起こることが結構あったんです。

それまでは、マッサージはお金おかかるし、週に1回行けばじゅうぶんという刷り込みが自分の中にあったのですが、昼過ぎにマッサージに行くことを週5でしたら化けるんじゃないかと(笑)。そうした仮説のもと、いつでも頼むことができて、かつ腕のあるマッサージ師さんを見つけたのですが、実際にやってみると1日が2回になるような感覚があり、非常に良かったですね。

リアルな世界でも複数アカウントを持っている状態

――先ほどマッサージの話がありましたが、頭ばかり使っている状態はあまり健康的ではないですよね。心身のバランスを取るようなことは心がけていますか。

僕自身、運動はもっとしないといけないと感じていて、ジムにも入っているのですが、会費を払い続けているだけで、ほとんど行けていません。これは完全に自分自身の問題なのですが、人には続かないことというのがどうしてもあるので、自分が続けていける仕組みをつくれないかと考えています。

――ねじさんは、継続していくための仕組みづくりや、自分の力を最大限発揮するための環境づくりがとても上手な印象を受けます。

そういうことはよく考えていますね。自分の中では場所とタスクの関係というのも結構大きくて、例えば、アイデアが出るカフェ、出ないカフェというのがあるんですよね。これは感覚的なものになってしまうのですが、空間の雰囲気やインテリアの質感などによって、明らかに違いがあるんです。だから、アイデアが出ないカフェでは諦めて本を読んだり他のことをするし、逆にアイデアが出るカフェではそれに専念するように心がけています。

――ちなみに仕事のオンとオフを明確に切り分けていますか?

先ほど、リビングにパソコンを置いたという話をしましたが、基本的には仕事場と家でオン・オフのスイッチを切り替えています。だから、家では仕事のメールを返したり、メッセージを開いたりしないようにしています。

単にPDCAを回すというより、仕組みそのものにゲーム性や遊びのあるルールを持たせることで、アイデアやデザインのブレイクスルーをつくり出している。

――では、オフの時間にはどのように思考を切り替えたり、ほぐしたりしているのでしょうか。

オフとは少し違うのですが、僕はブルーパドルという自分の会社の他に、1980YEN(イチキュッパ)というアートユニットや、CHOCOLATEというコンテンツスタジオにも籍をおいています。例えば、1980YENで関わる人たちにはミュージシャンなどが多く、自分でもラップをしたりもするので、モードとしてはアーティストなんですね。作家の平野啓一郎さんが本などでも書かれている「分人主義」ではないですが、そこには広告の仕事をしているブルーパドルの自分とは別の分人がいるんです。

自分の中に、アーティスト、クリエイター、父親などの分人がいて、常にどれかがオンの状態で、それ以外の分人はその間休憩をしているような感覚に近いかもしれません。これは、ビジネスマンが週末に畑仕事をしているようなことと近くて、それ自体は労働なんだけど、ビジネスマンの自分からすると休暇になるわけですよね。僕というものがあまりないのですが、オフで家にいる時の自分に色々枝葉が増えていくことよりも、自分の中に色々な分人が増えていく感覚の方が気持ちが良いんです。

食品まつり、くろやなぎてっぺい、ファストボーイ、シシヤマザキ、佐藤ねじ、光戦士からなるファストカルチャー系ユニット。横浜トリエンナーレ新・港村や愛知芸術文化センターでのインスタレーション作品など、国際美術展や大型フェスなどジャンルやメディアを横断した作品を多数発表。

――常にオルターエゴのようなものがオンになっている状態というのは、ソーシャルメディアなどをはじめとするオンラインでのコミュニケーションのあり方に通じるところがありそうですね。

たしかに、ネット上のアバターやソーシャルメディアの裏垢(裏アカウント)なんかに近いかもしれないですね。僕も最近ツイッターで裏垢をひとつつくって、そこでは子どものことだけを投稿しているのですが、普段の自分と全く違う気分でつぶやけるんですよね。リアルな世界においても、複数アカウントを持っている状態にしたいというのがあるのだと思います。

経験してきた仕事の振れ幅の広さができることの応用を広げる

――ここまでうかがってきた習慣や仕組みづくりを通して生まれたアイデアを、クライアントやエンドユーザーに伝える際に意識していることはありますか?

僕は構造的にボトムアップで広がっていくものが好きで、広くマスに向けて何かを伝えていくことというのはあまりイメージできないんですね。基本的には、自分がリアルなユーザーの立場になって、こういうものがほしい、こういうポイントがグッと来るという視点で発想しているのですが、その背景には、つくるものの解像度を高めたいという考えがあります。例えば、子ども向けのコンテンツを子どもがいない時につくると、子どもができてからつくるのでは、伝わり方も大きく変わってくると思うんですね。だから、女子高生がターゲットになっているような仕事よりは、背伸びをせずに身近な人をペルソナにできるような仕事を受けるようにしています。

――例えば、自分がまったく知らない分野において、アウトプットの解像度を高めていくためにはどうすれば良いと思いますか?

ひとつはその分野にいる人たちに話を聞くということだと思いますが、仕事上のインタビューなどから得られる情報というのは概して解像度が低めだったりします。だから僕は、友人のような関係性になれる人がいたら、その人にもう少し突っ込んで話を聞くことで、解像度が高い情報を得たり、その分野にいる人たちの感覚を理解するように心がけています。

こういうものがほしい、こういうポイントがグッと来る、というリアルなユーザー視点からの発想するからこそ、自分の中の「分人」が多いほどアウトプットの解像度が高まる。

――そういう意味では、先ほど話に出た「分人」が自分の中に多いほど、アウトプットの解像度が高まるのかもしれないですね。

そう思います。経験してきた仕事や職業に振れ幅があるほど、できることが広がるという話もありますよね。それを家族などに置き換えて、自分が父親としてだけでなく、母親としての役割も担ってみたらどうなるのかという実験をしてみたり、あえて子どものように振る舞ってみたりすることでわかることもあるはずです。そういう経験をもっとうまく応用しながら、発想や制作につなげていけるといいなと思っています。

  • TEXT BY 原田優輝
  • PHOTOS BY 寺島由里佳
  • EDIT BY 瀬尾陽(BNL)