「“いいしごと”のために、有限な時間をデザインする。」──5つの愛用品から見る清水淳子の働き方

グラフィックレコーダーとして、会議やイベントなどの議論を可視化してきた清水淳子は、さまざまな場のコミュニケーション改善に貢献してきた。清水自身が目指す“いいしごと”、そしてそれに欠かせない5つの愛用品とは?


――まずは、清水さんの現在の「働き方」について教えてください。

フリーランスとして、三足のわらじで活動しています。3つの仕事をちょうど1/3ずつの割合でしているので、これがメインというものはありません。

1つめの仕事は、多摩美術大学情報デザイン学科の専任講師としての仕事。2つめは、グラフィックレコーダーの仕事。3つめは、仕事で得た知見から、グラフィックレコーディングの視覚言語としての意味を研究する仕事です。

毎日、行く場所が変わるので、自分のアトリエで1日こもって仕事をするといったことはないですね。とくにグラフィックレコーディングの仕事は、シンポジウムや会議などが行われる場所へ赴くことがほとんどですから。

グラフィックレコーディングの国内第一人者。デザイナーとして勤めていた会社員時代、参加した会議で議論を図解し課題を共有したところ、雰囲気良く進められた経験が活動開始のきっかけ。

――グラフィックレコーダーとはどんな仕事なのでしょうか。そのうえで“いいしごと”とは?

グラフィックレコーダーは、会議などの議論をリアルムタイムで記録し、可視化する仕事です。できあがったビジュアルを「対話のツール」として使い、議論が生む齟齬を解消し、浮き彫りになった問題点を解決へ導く手段となることが目的です。

グラフィックレコーディングはアート作品のように扱われがちですが、ツールとして活用してもらってこそ役割を果たすことができる。そのためには、紙を貼る場所や描き始めるタイミング、どうやって使うかもあわせて設計する必要があります。

このマネジメントがうまく行って、必要な場所で適切に使ってもらい、参加者にいい影響を与えられたときに、“いいしごと”になったなと感じます。

参加者の議論を、図やイラスト、文字を組み合わせたグラフィックに落とし込む。グラフィックは議論に沿い、リアルタイムで更新されていく。

――では、清水さんにとっての「いい働き方」とは?

私が新卒で入った会社では、「1日7時間以上働いてはいけない」という方針があったんです。自分で引き受ける仕事は7時間分以上受け取ってはいけないし、受け取ったからには絶対に7時間以内に終わらせろ、と。

2009年の当時は「働き方改革」なんて言葉はなかったし、体力もあったので、「もっと働きたい!」「徹夜とかかっこいいのに…」って本気で思っていたんですよ。でも今思えば、「1日7時間以上働いてはいけない」という考え方ってめちゃくちゃヘルシーですよね。

7時間で終わらせるためには、仕事を受け取る前にどのくらいかかるかを予測したり、ツールを工夫したり、自分のスキルを上げたりすることが必要になる。それはそれで難しいことですが、集中できれば7時間って意外と長い。なかなか実現は難しいですが、今では働き方の基準にしています。

清水淳子の“いいしごと”をつくるアイテム

(写真右上から時計回りに)グラフィックレコーディングで使うペン(Neuland)とバッグ、腕時計(MONDAINE)、砂時計、iPad Pro、スケッチバッグ(マルマン)

1. グラフィックレコーディングで使うペンとバッグ

日本メーカーからはまだグラフィックファシリテーション専用ペンの発売はない。

壁に貼られた模造紙に、ペンを使ってリアルタイムで記録していくグラフィックレコーディング。ペンはいくつかのメーカーを併用していますが、もっとも愛用しているのがNeulandというドイツメーカーのグラフィックファシリテーション専用ペンです。

紙に裏写りしない、壁の模造紙に垂直にして素早く描いてもしっかり線が乗るなど、議論をリアルタイムで記録するのに最適な設計が、ほかにはない魅力。実際に会議などで描く際は、ケースに使うだけの本数を入れて、腰に巻いて使っています。

2. 腕時計

仕事を決まった時間で納めるべく、清水は時間を「束」で認識してスケジューリングを意識している。

2年前から、MONDAINEの「Helvetica No.1 Regular」を愛用中です。ヘルベチカという書体で書かれた文字盤の視認性が高く、分単位まで確認しやすい。秒針が刻まれるカッチ、カッチ、という動きも含め、時間を把握しやすくて気に入っています。

アナログなのもこだわりです。例えば、移動する際にデジタル時計で時間を見ると、ひとつの数字としか時間を感じられず、焦るんですよね。一方、アナログ時計だと時間を「束」として認識できる。時間に分刻みで支配されるのではなく、ひとまとまりで自分の時間を使うという感覚を得られるのがいいところです。

3. 砂時計

3つめも時間に関連するアイテム。砂が柔らかく積もる様子に、時間を大切しつつもそれを共有する相手への心配りを感じた。

学生の相談に乗るときや、授業で学生たちが発表をするときなど、複数人で時間を共有しているときに役立つのが砂時計。計測時間が異なる数種類のセットで購入したうち一番使うのが15分計で、持ち歩いています。

真剣に相談を聞いていると、つい時間を忘れがち。でも、時計で時間を確認するのは罪悪感があって。そこに、同じ多摩美の森野和馬先生が砂時計をすすめてくれたんです。

タイマーでも時間は計れますが、アラーム音が暴力的な感じがして……。砂時計なら、お互い嫌な気持ちにならずに時間を意識できるんです。

4. iPad Pro

アプリ「Procreate」ではグラフィックレコーディングを描く経過がムービー保存できるため、会議後に議論のプロセスを再現可能。1枚絵で振り返りを行うのとは違う体験になるそうだ。

4カ月前にiPad ProとApple Pencil(ともにApple)を使うようになり、「書く/描く」体験が劇的に変わりました。ペーパーライクフィルムで紙のそれと遜色ない書き味を実現できて、さらにすばやくシェアできる。しかも、場所を選ばずに。

よく使うアプリは「Good Notes」と「Procreate」。前者は手書きノートアプリで、仕事や研究のアイデアノートを20冊ほど、管理しています。ページを無限に増やせるのが革命的ですね。後者の「Procreate」はペイントアプリで、これにグラフィックレコーディングを描きながらリアルタイムでモニターに映したり、会議にオンライン参加しながら描くこともできます。

アナログで作業していた仕事は、デジタル化で時短と軽量化につながりました。この中に入っているノートを実際に印刷したら、20cmくらいの束にはなると思います(笑)。

5. スケッチバッグ

多くのアーティストやクリエイターはアトリエで創作するため、画材を運ぶことに特化したバッグは少ない。

絵描き用のスケッチバッグ(マルマン)は、グラフィックレコーディングの仕事の際に。

マチがしっかりあって量が入るうえ、ノートPCや貴重品を分けて収納できたり、紙を持ち運ぶためのベルトが備わっていたりしつつ、かさばらないのがいいですね。口が大きく開くので、大量の画材をスマートに移動・片付けられるのもポイント。仕事の際に準備や片付けに手間取り、参加者のみなさんの貴重なお時間を余計にいただくわけにはいきませんから。

カジュアルすぎないデザインでオフィスシーンにもなじみ、重宝しています。

もっと視覚言語の可能性を探りたい

――今後は、どんなことに取り組んでいきたいですか?

数年前から、グラフィックレコーディングを視覚言語としてとらえ、その効果や影響を本格的に研究するようになりました。たとえば、会議の内容をグラフィックレコーディングして議論を可視化すると、なぜ前向きな雰囲気になるのか。

「絵があるとほっこりする」「女性がいると華やぐ」と乱暴な印象だけでまとめる人もいます。でも私は、ビジュアルの持つ機能が、どこか人間の根本的なところに作用していると考えているんです。

ビジュアルが言語として人間に与える効果や影響については、身近なようであまり研究が進んでいない。ですから、ぜひ取り組んでいきたい。そして、特別な人がビジュアルを表現に使うものではなく、誰でも日常の中で言語として使えることが普通になっていけばいいですよね。

教鞭を執る多摩美の専任講師としては、今すぐ役立つ技術を伝えるだけでなく、10年後に実るであろう未知の価値を伝えたいと話してくれた。

――だれもがビジュアルでもコミュニケーションできるようになれば、働き方の未来も変わりそうですね。

そうですよね。文字で伝えることってだれもが問われるスキルだけど、絵で伝えるスキルはいつまで経っても誰かの特殊技能のまま。

もしビジュアルでコミュニケーションできることが、名刺交換のような当たり前のビジネススキルになっていけば、仕事ってもっと効率化するはず。事実、「テキストだけじゃなく、絵や図も使って伝えることができれば、会議の時間が1/3に短縮できるのに」って感じるような相談がたくさん来ますから。

そうした未来がやってくるようにどんなお手伝いができるのか、これからも視覚言語の可能性を探っていきたいですね。

  • TEXT BY 有馬ゆえ
  • PHOTOS BY 河合信幸
  • EDIT BY 大村実樹(東京通信社)